イデアルと長月遥が会話をする。二月のおわりごろに。

「はあ。
太陽光がつよいわね。

春の日差しですよね?」と長月遥。

当たり障りのない会話だ。

イデアルも同意した。

春昼後刻(しゅんちゅうこうこく)のようだよ」
「なんですか?
それって?」
「泉鏡花の小説だな」とイデアル。

のんびりと。
学校の教室で話すことといえば植物と昔の小説の話題ぐらい。
それが学校ともいえた。

「そういえば、和歌の勉強をしたいんですよ。

古今和歌集(こきんわかしゅう)は持っていますから。
文庫本で」と長月遥。

イデアルは答えた。

「そういえば、百人一首のテストがあるんだった」

「そうですね。
それを先にしませんと」

午後の授業に国語の授業があって、俳句や短歌を作ることになっているのだ。

イデアルは短歌や俳句をいくつか書き()める。

「これはどうかな?」

・朝焼けに星さえ見えねば春霞

「悪くないですね。
でももう少し「ねば」を変えてはどうでしょうか?」

・朝焼けに星さえ見えぬ春霞に

「あ、よくなった」
「そ、大切なのは感覚。
そして、それを説明する論拠(ろんきょ)

お手本をきちんと読んでいれば、なんとかなるものですよ」と長月遥。

そのあとで。

「草あやめと雛がたりね」

と長月遥。

教室に持ってきたスマホだ。

「泉鏡花の作品だな」とイデアル。

二編(にへん)のそれぞれが短い掌編(しょうへん)ですね。

「雛がたり」ではびっくりとするわ」と長月遥。

あー。

学校だったのだ。