[強力の学士]

長月遥はふっと息を吐くと、古典文学を読む手を止めて、コーヒーを飲む。自宅の学習机だ。

そういえば宇治拾遺物語には、こんな話がある。

節会のため都に上がってきた相撲取りである、成村(なりむら)強力(ごうりき)の学士に喧嘩をうり成村一同が棒切れのように吹き飛ばされる話だ。

そののち近衛府は宣旨(せんじ)をだし、大学寮の学士(大学寮は式部省麾下の組織の一つ)探したものの、なんでもその強力をもつ、学士は見つからなかったとか。

お話だ。

つくづく長月遥は古いお話がもつ論旨の面白さに感じ入った。それは過去の話が今に伝えられることの感興であった。生きていることは物語の恩寵なのだから。散文的な出来事でも伝えられるうちにお話に変わるのであろうし、お話が人生を左右する出来事に変わることもありそうである。