・凍てついた谷に。

凍てついた峡谷があった。
密使ユエはそこを歩いている。

花あやめ。
草木がわずかに谷間に茂っていた。命の息吹を密使ユエは感じた。
玉砂利や真砂が凍てついた谷に堆積する。

水が穿った峡谷から行く先には険しい雪山が連なる。
歴史はなにを積み重ねてきたのだろうか。ふと密使ユエはそう痛感した。

解釈を重ねた。それは確かなことだ。
しかし自然に対して人間の知の営みなどが及ぶものだろうか。

旅順入城式。影絵。
密使ユエは徒歩ですすむ旅人だ。