観覧車を降りると、もう当たり前のように手を繋いで車に乗った。

「今日は、とっても楽しかったです。……なんかいろいろもらっちゃって、すみません」

シートベルトを締める。カチ、という音がリズムよく二回、車内に響く。

「僕も楽しかったから、気にしないで」

夕日が沈んだ直後の空が、私はなんとなく好きだ。帰らないといけない時間がやってきて昔は寂しいなと思っていたが、すぐに月が仄かに私を照らしてくれると思うと、なんだかときめいてしまう。

ぼんやりと空を見ていると、先生はふと笑った。

「……?」

首をかしげて先生を見る。運転中だから目は合わないけれど、その横顔は確かに笑っていた。

「眠いなら寝てもいいんだよ。まだつかないし」

「……じゃあ、寝てます」

「うん、着いたら起こすね」

私は、ゆっくりと瞼を閉じる。疲れからか思いの外早く、眠りについた。

「……早いなあ、寝るの」

そんなレイを、彼方は優しい目で見つめた。信号待ちのタイミング。安心しきったように、あるいは幸せそうに眠るレイの頬を、指先で軽くつつく。

「ん……」

ぴく、と動きはしたものの、やっぱり起きなくて。

どうやら今日は随分と満喫してくれたようだ。

「またこうしていけたらいいんだけどね」

嫌いじゃないと、レイは言った。その言葉に嘘はないが、ともすれば残酷なことを言っていると、彼女は気づいていただろうか。

好きと嫌いの間には、何もないと。レイは暗にそう言った。

……まあ、嫌いよりはマシかな。

そう思うことで無理に保った心に、レイが気づくことはない。

好きな人の隣に立つということがどれほど難しいか、彼方は今、身をもって体感していた。

レイは子供だから。彼方がどれほど我慢しているかなんて知らないのだ。

警戒心のない寝顔。もしここで家以外の場所に着いたら、酷い、最低です、と罵倒されるのだろう。とても怒った顔で。

「レイは、少しぐらい警戒したほうがいいと思うけどな」

二人を乗せた車は、しばらくかけて待ち合わせ場所まで戻ってきていた。

レイはやっぱり自分からは起きない。

だからこれは、教師としての彼女への教え。

シートベルトを外すと、レイに向かって身を乗り出す。

細い首筋の__鎖骨付近に唇を寄せて、甘く吸いつく。

「んん……」

微かに痛むのか、レイが眉を寄せて呻く。しかし、もう遅い。

なにせレイが目覚めた時には、もうそこに花弁が咲いていたのだから。

「せんせ……? つい、たんですか……?」

純粋なレイに頷いてみせる。首元の所有印には触れない。

「あの、今日は本当にありがとうございました」

「うん、また明日ね。おやすみ」

レイは笑っておやすみと返すと、車を降りて歩いていった。

彼方はまた一つ、レイに隠し事をしてしまった。