家に帰り、ベットに横になると、久しぶりに歩いたせいか疲れがどっと押し寄せてきた。


「……つかれたあ」


お昼ぶりくらいにスマホを開くと、珍しく佐藤からメッセージが来ていた。


『秋祭り、俺と一緒に行ってくれないか』


__何も考えず見てしまったことを今日ほど後悔したことはない。
 

佐藤はまだ全然私のことを諦めていないのだと思い知る。どうやらどこまでも真っ直ぐで一途なようだ。先生のように。


とはいえ見てしまった以上、何か返さないと具合が悪い。だけど、どう返事していいかわからない。


例えば、秋祭りに行かないのであれば返事はずっと楽に済むだろう。適当にバイトがあるとでも言って断ればいいだけだ。


しかし、私は一ヶ月前からすでに「先生と行く」と約束してしまっている。


そう、この「秋祭りに行く上で佐藤の誘いを断る」と言うことが、とてつもなく難しいのだ。


「……普段からこんくらい賢かったらなぁ」


佐藤のことだ、先生のことを伏せたところでどうせ「誰と行くんだ?」と聞いてくるだろう。


佐藤はもう全部わかっていて、答え合わせをしようとしているのかもしれない。


……どうしたらいいか私だけではわからない。


先生を頼ろうと思って、通話ボタンを押そうとして、躊躇う。迷惑だったらどうしよう。


たっぷり十分ほど迷って、やがて私はなるようになれと電話をかけた。


出なかったらすぐ切ろう、そう思っていたのに先生は実にあっさりと電話に出た。


『もしもし?』

「ぁ……せん、せい」

『ん、どうかしたの?』

「えっと……は、話したいことが、あって」


先生は黙って続きを促す。


けれど私はまるで声の出し方をすっかり忘れてしまったかのように、そのまま喋れなくなってしまった。


先生は、このことを話したらなんて言うんだろう__そう考えたら、少し怖い。


『レイ? 大丈夫?』

「あ、はい……」

『電話で話しづらいなら、今からそっちに向かおうか』

「え、いや、それはさすがに先生に申し訳ないというか……!」

『でもレイが電話をかけてくるってことはよほど悩んでるか、緊急の用事なんでしょ?』


微かに物音がする。ガチャンと鍵をかけたような音がして、コツコツと革靴が反響する音。どうやら本気らしい。


『30分くらいで着くから、公園で待ってて』

「あ、待っ」


ぷつんと通話が切れて、取り残されてしまった。先生はいつも急だ。


なんとか髪の毛を見苦しくない程度にととのえて、チェストから適当な服を引っ張り出してきて着替える。両親にバレないようにそーっと家を出て、鍵をかけた。