早いものでもうデートの日になってしまった。

 先生はあの日から学校で特に迫ってくることはなかったけれど、メッセージアプリに時折メッセージを送ってくるようになった。

 ついつい見て返事を返してしまうからダメなのだろうなぁ、と思いながらも、なんとなくそれが楽しい自分もいて少し複雑な気持ちだった。

 別に恋をしているわけではない。恋人以前に友人もいない私からすれば、仲良くしてくれる人がいるというだけで楽しくなってしまう。

 本当に、それだけ。

コンコン、と運転席の窓をノックする。先生、と呼ぶと、彼は軽く片手を上げてそれに答えた。

手で助手席を示されたので、私はそこに座った。ふかふかの座席にすっぽりと収まると、緊張が更に増した。

最寄駅近くの公園。淡い黄色の軽に乗って待ってると言われたので____断ることもできたけれど、結局、私はここに来た。

フレアのスカートにペンギン袖のシャツ。少しだけ施した化粧に、先生はめざとく気づいた。

「少しはおしゃれしてきたんだ?」

フィッシュボーンにした髪の編み目をなぞりながら、先生は嬉しそうに笑った。

「……変ですか」

「まさか。すっごい似合ってる。可愛いよ、いつも以上に」

あまりにもストレートな褒め言葉に、私の顔は林檎のように赤くなってしまった。見られたくなくて、顔を背けようとすると、先生がそっと手を握ってきた。

驚いて先生を見ると、少しだけ不機嫌そうだった。

「ちゃんと見て。今日は僕のこと以外考えたらダメだからね?」

もう十分先生のことで頭がいっぱいだと、言おうとしてやめた。それはなんだか負けたような気になるからだ。

いつもと違ったセットをした髪型はオフ感を醸し出してるし、左耳のピアスも、微かな存在感を与えている。

何より、普段していない黒縁めがね。それ越しに見つめられると、なんとなく吸い寄せられたように見つめ返しそうになる。

つまるところダメなのだ。先生のことを意識するなと言われる方が。

顔だけは、無駄にいい。そんな先生の隣に似合うようにするには、多少のおしゃれは必要だった。そうでなければ私が恥ずかしい思いをすることになる。

結果的には、殆ど無駄だったけど。

「それで、行きたいところはないの?」

先生は握った手を離さないまま、そう聞いてくる。私は静かに首を振った。

「私はないので、先生の行きたいところでいいですよ」

「わかった。じゃあ、僕の行きたいところにしようか」

実のところこの会話は、デートの約束をしてからずっとしてきたものだ。先生はおそらく、最後の確認という体で聞いてきたに違いない。

私の行きたいところ、なんて希望を聞いてくるあたりに優しさを感じたが、実のところ殆ど行きたいところがない。強いて言うなら本屋だが、そんなところでデートなんて聞かない。

だから、先生に委ねるのが懸命だと思ったのだが____

「あ、そうだ。レイに一つ、プレゼントがあるんだけど」

先生はそこでようやく手を離して、代わりに洒落た袋を私に手渡してきた。

何気なくそのロゴを見て、私は慌てた。それは高級ブランドと言われれば誰もが知っているくらい有名なところ。

「こんな高いの、受け取れないです……!」

すると先生は哀しそうな顔をして、受け取ってとせがんだ。

「僕をプレゼントを突き返された哀れな彼氏にするつもり?」

「そうじゃなくて、……私じゃ、何も返せないから」

「別に、お返し目当てじゃないよ。それに、今から返してもらうからいいし」

すっと目を細めて、先生は身を乗り出して口づけてきた。肩に置かれた手の熱が、私から理性を奪う。

私は驚きのあまり、思わずぽかん、としてしまう。先生は優しく頭を撫でると、私から離れて、車を発進させた。

いつもいつもこの人は、先の読めない行動ばかりだ。