・
先生が、私のために料理している。もうすぐそれも、一時間を超えそうだ。
お腹がすいたとかそういった感覚はなくて、ただただ、先ほど、何故あんなことを言ってしまったのかということで頭がいっぱいだった。
先生のご飯。そう言った後、まさか一つ返事で了解されるなんて思わなかった。
材料を取り出すために冷蔵庫を見て思ったのだが、やはり先生はちゃんと自炊をしているようだった。時折部屋に響く音が、 とてもテンポいい。
「ごめんレイ、もうちょっとかかりそう」
私が待ちくたびれているとでも思ったのか、先生は何かを焼きながらよく通る声で言った。
「はい。大丈夫です、待ちますよ」
「ありがとう。本棚の本でも読んで待ってて。なるべく急ぐから」
そう言うので、なんとなしに壁の本棚に目を移す。上から下までびっしりと、洋書や理科系の専門誌、小説、漫画など幅広いジャンルの本が並んでいる。
「すごい量……」
これだけあったら、見ているだけでも楽しい。上から順に視線を落としていき、ふとある背表紙をみて視線を止めた。
それは、私がとても好きだった本。ある夏の日に出会った少年少女の恋愛という、まあまあありきたりな内容なのだが。
懐かしさにつられるように指を伸ばして引き抜く。この本が好きだったのは、内容ではなく、文章。
『たとえこの先の未来に君がいなくても、今そばに居られるならそれでいい』
物語の後半、不治の病に苦しむヒロインが主人公に別れを切り出したときに、主人公がかけた言葉。
ごくありふれたようなそのセリフが、今を生きている美しさを際立てて、読んでいて知らず知らずのうちに泣いていたのを、思い出した。
でも、この本はどちらかといえば女性向けで、先生が持っているのはなんとなく意外だ。そう考えてから、私にこの本を薦めてくれたのは『男の人』だと思い出す。意外と男受けするのかもしれない。
ページをパラパラとめくると、情景が一気に蘇ってくる。この本はのちに映画化されて、それも見たけれど、私は映画よりも本で読むほうが何倍も感動した。
「レイ、できたよ」
その声に我に返って、慌てて本棚に本をしまう。別に後ろめたいわけじゃないのに、なんだか知られたくなかった。
テーブルの上にはあの時間で作ったとは思えないクオリティの品が並んでいた。グラタンにミニピザ、フルーツとナッツのサラダ。お店で売ってそうだ。
こんなに料理ができるのに、昼間のチャーハンを食べさせてしまったことを若干後悔する。正直食べなくてもわかる。スキルが違いすぎる。
「……料理人でも、してたんですか?」
「あはは、まあ、大学時代にちょっとバイトはしてたけどね」
先生の横に座って、一緒に食べ始める。まずは、グラタン。可能な限り冷まして、慎重に口に運ぶ。
「美味しい、です……!」
久しぶりに食べたからかもしれないけれど、グラタンの美味しさに目をみはる。
「気に入ってくれてよかった」
優しく笑う先生に、また鼓動が早くなる。
何気なく泊まる、なんて勢いで言ってしまったけれど、つまりは今夜、先生と一つ屋根の下で眠るということで。
「……っ」
熱くなった頬を、私は料理のせいにした。
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先生が、私のために料理している。もうすぐそれも、一時間を超えそうだ。
お腹がすいたとかそういった感覚はなくて、ただただ、先ほど、何故あんなことを言ってしまったのかということで頭がいっぱいだった。
先生のご飯。そう言った後、まさか一つ返事で了解されるなんて思わなかった。
材料を取り出すために冷蔵庫を見て思ったのだが、やはり先生はちゃんと自炊をしているようだった。時折部屋に響く音が、 とてもテンポいい。
「ごめんレイ、もうちょっとかかりそう」
私が待ちくたびれているとでも思ったのか、先生は何かを焼きながらよく通る声で言った。
「はい。大丈夫です、待ちますよ」
「ありがとう。本棚の本でも読んで待ってて。なるべく急ぐから」
そう言うので、なんとなしに壁の本棚に目を移す。上から下までびっしりと、洋書や理科系の専門誌、小説、漫画など幅広いジャンルの本が並んでいる。
「すごい量……」
これだけあったら、見ているだけでも楽しい。上から順に視線を落としていき、ふとある背表紙をみて視線を止めた。
それは、私がとても好きだった本。ある夏の日に出会った少年少女の恋愛という、まあまあありきたりな内容なのだが。
懐かしさにつられるように指を伸ばして引き抜く。この本が好きだったのは、内容ではなく、文章。
『たとえこの先の未来に君がいなくても、今そばに居られるならそれでいい』
物語の後半、不治の病に苦しむヒロインが主人公に別れを切り出したときに、主人公がかけた言葉。
ごくありふれたようなそのセリフが、今を生きている美しさを際立てて、読んでいて知らず知らずのうちに泣いていたのを、思い出した。
でも、この本はどちらかといえば女性向けで、先生が持っているのはなんとなく意外だ。そう考えてから、私にこの本を薦めてくれたのは『男の人』だと思い出す。意外と男受けするのかもしれない。
ページをパラパラとめくると、情景が一気に蘇ってくる。この本はのちに映画化されて、それも見たけれど、私は映画よりも本で読むほうが何倍も感動した。
「レイ、できたよ」
その声に我に返って、慌てて本棚に本をしまう。別に後ろめたいわけじゃないのに、なんだか知られたくなかった。
テーブルの上にはあの時間で作ったとは思えないクオリティの品が並んでいた。グラタンにミニピザ、フルーツとナッツのサラダ。お店で売ってそうだ。
こんなに料理ができるのに、昼間のチャーハンを食べさせてしまったことを若干後悔する。正直食べなくてもわかる。スキルが違いすぎる。
「……料理人でも、してたんですか?」
「あはは、まあ、大学時代にちょっとバイトはしてたけどね」
先生の横に座って、一緒に食べ始める。まずは、グラタン。可能な限り冷まして、慎重に口に運ぶ。
「美味しい、です……!」
久しぶりに食べたからかもしれないけれど、グラタンの美味しさに目をみはる。
「気に入ってくれてよかった」
優しく笑う先生に、また鼓動が早くなる。
何気なく泊まる、なんて勢いで言ってしまったけれど、つまりは今夜、先生と一つ屋根の下で眠るということで。
「……っ」
熱くなった頬を、私は料理のせいにした。
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