・
「……うん。とりあえず一回終わろうか」
先生のその声で、勉強モードの頭は一気にオフモードに入る。
いつの間にかお昼時で、私は今更ながらに空腹を感じていた。
「何か作ろうか。何がいい?」
立ち上がって今にもキッチンに向かいそうな先生を慌てて引き止める。
「待ってください、私が作ります」
「レイが?」
「さすがに何もせずに帰るわけにはいきませんから。今日のお礼ってことでダメですか?」
「……そこまで言うなら、頼もうかな」
リクエストは、そう問うと、レイの得意料理がいいと返された。そんなことを言われても、すぐに頭に浮かぶのはあの家庭料理しかない。
不躾にも冷蔵庫の中を一通り見て、材料が揃っていることを確認すると、米を2合分洗って、炊飯器にセットする。
前を見ると、本を読んでいる先生の後ろ姿が見える。キッチンからリビングもダイニングも両方見える設計だから、仕方ないと言えばそれまでなのだけれど、やっぱり少しそわそわする。
好きに使っていいと言われた冷蔵庫から、野菜や肉を取り出してみじん切りにしていく。一人暮らしだからか、私の家に比べたら量があまりない。
「わ、IHだ……」
フライパンをとりあえずはその上に置くが、私は内心焦っていた。
というのも、実はIHを使ったことがないのだ。家はガスコンロだし、他人の家で料理をするのも今日が初めてだから。
「先生、ちょっとだけいいですか?」
結局自力での解決は諦めて、先生を呼んだ。壊すよりはマシだ。
「どうかした?」
「IHの使い方だけ教えて欲しくて」
ああ、と納得したように先生は私に近寄って、どこかのスイッチを押した。
「これで火がつくから。ここで調整して。終わったら、またここを押したら消えるから」
わかった、といつもの授業のように先生は聞いてくる。正直教えるということを抜きにしても先生の距離が近すぎて、話は半分ほどしか入ってきてない。
それでも私が首を縦に振ったのを見て、先生は、楽しみにしてるなんて無駄にハードルだけをあげて帰っていく。
「……頑張るか」
深呼吸をすると、私はよし、と頷いて材料をフライパンに流し入れていく。
一度集中できたら、私は周りなんて見えなくなる。出来上がって息を吐いた時に初めて、先生が隣にいるのに気がついた。
「いつ来たんですか……」
「あまりに美味しそうな匂いがしたから、つい。レイが真剣そうだったから、話しかけなかったけどね」
先生はフライパンを覗き込む。
「チャーハンか」
「はい。食べられますか」
「うん、好きだよ。まあ、レイが作ってくれたものなら、嫌いなものでも僕は食べるよ」
先生が出してくれたお皿に二人分盛る。なんだか、仮の恋人同士だったはずなのに、いつの間にか本当の恋人同士のように私たちはなっているような気がしてしまう。
嬉しいけれど、少し苦しい。
嬉しそうに鼻歌なんて歌いながら、先生は座って食べ始める。
「ん、美味しい」
私が緊張してみていたことに気づいたのか、先生は花のようにふんわりと、甘く笑う。
それにほっとして、私も一口食べる。先生とご飯を食べるなんてあのデートの日以来だ。
思えば私と先生は、思っているよりはあまりそばにいないのかもしれない。学校という場所がら、必然的に会う時間を除けば、本当に望んで会っている時間なんて、きっと大したことない。
先生を見ると偶然目があって、なぜか彼は面白そうに笑った。
「レイ、口にご飯ついてるよ」
「え、うそ、どこですか?」
「ああ、待って動かないで。取ってあげるから」
おとなしく待っていると、先生はゆっくりと顔を近づけてくる。
「あの……? なんでちかよ……っ」
言葉にするより先に、先生の唇が頬に触れていた。
「……はい、取れたよ」
ぺろりと薄い唇を舐めた先生は、またチャーハンを口に含む。
「ねえ、今度これの作り方教えてよ」
こくりと頷くことだけが、私の限界だった。今日の先生は、いつもより大胆な気がする。
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「……うん。とりあえず一回終わろうか」
先生のその声で、勉強モードの頭は一気にオフモードに入る。
いつの間にかお昼時で、私は今更ながらに空腹を感じていた。
「何か作ろうか。何がいい?」
立ち上がって今にもキッチンに向かいそうな先生を慌てて引き止める。
「待ってください、私が作ります」
「レイが?」
「さすがに何もせずに帰るわけにはいきませんから。今日のお礼ってことでダメですか?」
「……そこまで言うなら、頼もうかな」
リクエストは、そう問うと、レイの得意料理がいいと返された。そんなことを言われても、すぐに頭に浮かぶのはあの家庭料理しかない。
不躾にも冷蔵庫の中を一通り見て、材料が揃っていることを確認すると、米を2合分洗って、炊飯器にセットする。
前を見ると、本を読んでいる先生の後ろ姿が見える。キッチンからリビングもダイニングも両方見える設計だから、仕方ないと言えばそれまでなのだけれど、やっぱり少しそわそわする。
好きに使っていいと言われた冷蔵庫から、野菜や肉を取り出してみじん切りにしていく。一人暮らしだからか、私の家に比べたら量があまりない。
「わ、IHだ……」
フライパンをとりあえずはその上に置くが、私は内心焦っていた。
というのも、実はIHを使ったことがないのだ。家はガスコンロだし、他人の家で料理をするのも今日が初めてだから。
「先生、ちょっとだけいいですか?」
結局自力での解決は諦めて、先生を呼んだ。壊すよりはマシだ。
「どうかした?」
「IHの使い方だけ教えて欲しくて」
ああ、と納得したように先生は私に近寄って、どこかのスイッチを押した。
「これで火がつくから。ここで調整して。終わったら、またここを押したら消えるから」
わかった、といつもの授業のように先生は聞いてくる。正直教えるということを抜きにしても先生の距離が近すぎて、話は半分ほどしか入ってきてない。
それでも私が首を縦に振ったのを見て、先生は、楽しみにしてるなんて無駄にハードルだけをあげて帰っていく。
「……頑張るか」
深呼吸をすると、私はよし、と頷いて材料をフライパンに流し入れていく。
一度集中できたら、私は周りなんて見えなくなる。出来上がって息を吐いた時に初めて、先生が隣にいるのに気がついた。
「いつ来たんですか……」
「あまりに美味しそうな匂いがしたから、つい。レイが真剣そうだったから、話しかけなかったけどね」
先生はフライパンを覗き込む。
「チャーハンか」
「はい。食べられますか」
「うん、好きだよ。まあ、レイが作ってくれたものなら、嫌いなものでも僕は食べるよ」
先生が出してくれたお皿に二人分盛る。なんだか、仮の恋人同士だったはずなのに、いつの間にか本当の恋人同士のように私たちはなっているような気がしてしまう。
嬉しいけれど、少し苦しい。
嬉しそうに鼻歌なんて歌いながら、先生は座って食べ始める。
「ん、美味しい」
私が緊張してみていたことに気づいたのか、先生は花のようにふんわりと、甘く笑う。
それにほっとして、私も一口食べる。先生とご飯を食べるなんてあのデートの日以来だ。
思えば私と先生は、思っているよりはあまりそばにいないのかもしれない。学校という場所がら、必然的に会う時間を除けば、本当に望んで会っている時間なんて、きっと大したことない。
先生を見ると偶然目があって、なぜか彼は面白そうに笑った。
「レイ、口にご飯ついてるよ」
「え、うそ、どこですか?」
「ああ、待って動かないで。取ってあげるから」
おとなしく待っていると、先生はゆっくりと顔を近づけてくる。
「あの……? なんでちかよ……っ」
言葉にするより先に、先生の唇が頬に触れていた。
「……はい、取れたよ」
ぺろりと薄い唇を舐めた先生は、またチャーハンを口に含む。
「ねえ、今度これの作り方教えてよ」
こくりと頷くことだけが、私の限界だった。今日の先生は、いつもより大胆な気がする。
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