・
後夜祭には、なんとか私の体力も回復していた。
とは言っても先生はやっぱり心配なようで、私と一緒に体育館の隅に座っている。
きっとこれを権力の乱用というに違いない。
先生は黙って私のとなりに座って、みんなと同じように、始まるのを待っている。
不意に照明が消えて、体育館のステージをスポットライトだけが照らす。____始まりの、合図だ。
「みんなー! お待たせー!」
アイドルのように可愛らしい声で煽るのは、意外にも生徒会長だ。学園人気は抜群。なにせ、群を抜いて美人なのだ。
「浜高後夜祭、始めるよー!」
体育館が、揺れる。生徒会長が引き下げると、今度は軽音楽部が出てくる。
私は、みんなのように波に乗り切れてはいないけれど、楽しいものは楽しい。
ヒット曲を歌うバンドをぼんやりと眺めながら、ふと、隣を見る。先生はいつの間にかいなくなっていた。
「……?」
いついなくなったのかわからないけれど、特別気にすることもないと思って、そのままバンドのボーカルが振る通りに小さく左右に手を振る。
「ありがとうございましたー! さすがのうまさですねー? さて、次はみなさんお待ちかね、ミスコンの時間ですよ」
ミスコン。私はこれだけはどうしても好きになれない。
確かにみんな、美男美女だ。でもそう考えるたびに、自分との違いを思い知って虚しくなる。
「今回の最終審査に残った方を紹介します! まず、エントリーナンバー……」
壇上に並ぶ面々の一人に、佐藤の姿を見つけた。偶然視線が合うと、彼は無邪気なまでに喜んでみせた。
やっぱり、雲の上だ。
「それではっ、投票の結果を発表しますっ」
スポットライトが目まぐるしく回転する。
「第一位は……なんと、圧倒的得票数で、垂水先生です!」
私は耳を疑った。でも、確かにとなりにいた先生は、今、ステージの上にいる。
「一位、おめでとうございます!」
会長の声に、先生はステージ袖からやや苦笑ぎみに頷く。
「では、ただいまから恒例のコスプレ部門に入ります! 垂水先生は執事服を着てくださると言うことですが……」
その声に、にわかに会場はざわつく。女子の面々は既にこぞって前に行き、先生の着替えを待っている。
分かりきっていたことだ。先生は人気者で、イケメンで、だから騒がれる。私なんかよりいくらでも可愛い女の子とだって、狙えばきっと目じゃない。
なのに、先生は私以外には、絶対に言い寄ったりしない。
「……さあて、着替えが終わったようですよ?」
会長の煽りは、生徒のボルテージをあげていく。皆が固唾を飲んで、しんと静まり返る体育館。そこに、足音が響く。
ゆったりとした足取りで、先生がやって来る。再びステージに戻ってきたとき、そこにいたのは紛れもなく執事だった。
「……っ」
思わず息を飲む。先生のコスプレはあまりにも完成度が高かった。
まじまじと見つめると、先生はふっと口元だけでイタズラに笑う。それはサプライズに成功したときのような顔だ。
「なかなかの完成度ですねー! なにかセリフとかもサービスしてくれたりするんですか?」
会長の無茶ぶりに、先生は呆れたように笑いながら。
「お嬢様、愛していますよ」
真っ直ぐと、私だけを見つめながら囁いた。
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後夜祭には、なんとか私の体力も回復していた。
とは言っても先生はやっぱり心配なようで、私と一緒に体育館の隅に座っている。
きっとこれを権力の乱用というに違いない。
先生は黙って私のとなりに座って、みんなと同じように、始まるのを待っている。
不意に照明が消えて、体育館のステージをスポットライトだけが照らす。____始まりの、合図だ。
「みんなー! お待たせー!」
アイドルのように可愛らしい声で煽るのは、意外にも生徒会長だ。学園人気は抜群。なにせ、群を抜いて美人なのだ。
「浜高後夜祭、始めるよー!」
体育館が、揺れる。生徒会長が引き下げると、今度は軽音楽部が出てくる。
私は、みんなのように波に乗り切れてはいないけれど、楽しいものは楽しい。
ヒット曲を歌うバンドをぼんやりと眺めながら、ふと、隣を見る。先生はいつの間にかいなくなっていた。
「……?」
いついなくなったのかわからないけれど、特別気にすることもないと思って、そのままバンドのボーカルが振る通りに小さく左右に手を振る。
「ありがとうございましたー! さすがのうまさですねー? さて、次はみなさんお待ちかね、ミスコンの時間ですよ」
ミスコン。私はこれだけはどうしても好きになれない。
確かにみんな、美男美女だ。でもそう考えるたびに、自分との違いを思い知って虚しくなる。
「今回の最終審査に残った方を紹介します! まず、エントリーナンバー……」
壇上に並ぶ面々の一人に、佐藤の姿を見つけた。偶然視線が合うと、彼は無邪気なまでに喜んでみせた。
やっぱり、雲の上だ。
「それではっ、投票の結果を発表しますっ」
スポットライトが目まぐるしく回転する。
「第一位は……なんと、圧倒的得票数で、垂水先生です!」
私は耳を疑った。でも、確かにとなりにいた先生は、今、ステージの上にいる。
「一位、おめでとうございます!」
会長の声に、先生はステージ袖からやや苦笑ぎみに頷く。
「では、ただいまから恒例のコスプレ部門に入ります! 垂水先生は執事服を着てくださると言うことですが……」
その声に、にわかに会場はざわつく。女子の面々は既にこぞって前に行き、先生の着替えを待っている。
分かりきっていたことだ。先生は人気者で、イケメンで、だから騒がれる。私なんかよりいくらでも可愛い女の子とだって、狙えばきっと目じゃない。
なのに、先生は私以外には、絶対に言い寄ったりしない。
「……さあて、着替えが終わったようですよ?」
会長の煽りは、生徒のボルテージをあげていく。皆が固唾を飲んで、しんと静まり返る体育館。そこに、足音が響く。
ゆったりとした足取りで、先生がやって来る。再びステージに戻ってきたとき、そこにいたのは紛れもなく執事だった。
「……っ」
思わず息を飲む。先生のコスプレはあまりにも完成度が高かった。
まじまじと見つめると、先生はふっと口元だけでイタズラに笑う。それはサプライズに成功したときのような顔だ。
「なかなかの完成度ですねー! なにかセリフとかもサービスしてくれたりするんですか?」
会長の無茶ぶりに、先生は呆れたように笑いながら。
「お嬢様、愛していますよ」
真っ直ぐと、私だけを見つめながら囁いた。
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