「あきは」

低くて落ち着いた声が、降ってきた。


「あっちに戻って、また辛い事あったら、いつでもここに来ればいいよ」

「…うん」

「俺はあきはの事支えたいし、…守りたいと思う」

「っ」


だめだ。

私この人の事が大好きだ。

今すごく抱きしめたい。

力いっぱい抱きしめて、たくさん彼の名前を呼びたい。


「勇太朗」

「…ん」

「抱きしめてもいい?」

「はっ!?」


あ、また動揺した。

これはまた押せばいけるかな、と思っていたら、腕を引っ張られて、力いっぱい抱きしめようとしていたのに、力いっぱい抱きしめられていた。 


「えっ」

「お前俺のこと押せばイケるとか思ってるような気がした」

「そんな事思ってないよ…」

「うそつけ、ばーか」


ぎゅうっと、男の人の腕で、声で、身体で、私を包み込んでくれる。

だから、私も負けないくらい力強く彼を抱きしめ返した。


「なんで俺がバイトしてお金欲しかったのか教えてあげようか」

「え?」

「東京に、会いに行こうと思ってた。俺が」

「…勇太朗…っ」

「あー、だめだ。ほんとに俺もう、やばい。俺、今すごく目を閉じてほしい」

「え!?」

「ふ、動揺してる」


ちゅ、なんていうきれいなリップ音が響いたわけではない。

だけど、お互いの吐息がぶつかって、唇と唇が触れた。


「…わ」

「……ひでえ顔」

「私今口半開きだったし目も開いてた!」

「ははは」


プシュー、と隣にバスが停まる。

私が大きな声を出している間に、彼は笑いながらバスのトランクルームにキャリーを入れた。