「俺は、夏休みが終わると、次の年の夏休みが待ち遠しくて仕方なかった。
来年はお前と何して遊ぼうって、ずっと考えてた。お前が来なくなっても、来年は来るかもってばかみたいに待ち続けてた。
ばーちゃんちに届いたお前からの年賀状を見に、わざわざ正月はばーちゃんちで過ごしてた。たまに年賀状に写真がついてたらラッキーだと思った。ラッキーだと思って、でもすげー大人っぽくなってて、なんかすげー悶(もだ)えた」
「あの日、いつもみたいにばーちゃんちに野菜持ってったら、お前寝てるんだもん。心臓飛び出るかと思った。来るなんて何にも聞かされてねーしいきなりだし、しかも縁側で寝てるし…。
5年だぞ、5年。小6と高2じゃ、見た目なんて全然変わってた」
「俺だって背も伸びたし声も低くなったし筋肉もついたし、こんな俺見たらお前ビビるだろうなとか考えてたけど、そんなのお前の方が破壊力強すぎて、死ぬかと思った」
「俺はお前に、あきはにずっと会いたかったよ。会って、くだらないこと話して、遊んで、笑いたかった。
あきはがこの場所にいればいいなって、毎年、夏が終わる頃はいつも思ってたよ。
今は、……今は、俺はあきはの傍にいたいと思ってるよ。それじゃ、だめなの?」
私が言い返す暇もなく、勇太朗は全て、吐き出してくれた。
毎年ここに来た時、祖母はどんな顔をしていただろうか。どんな話をしていただろうか。
そんな事も思い出せない自分に、腹が立った。
大切にしているはずだった思い出が簡単に頭の中から消えてしまう程に、私は、私の事でいっぱいになっていた。
「ちがうの。ちがうの、私は、そんな事言われるような人間じゃない。だって私はここに逃げてきたの。ここは私のきれいな思い出の場所だったのに、逃げるための場所になってた」
「…いいんだよ、あきは」
「え?」
「逃げる事は、悪い事じゃないと思う。ここを、お前の逃げ場所にしたらいい。それだけお前にとってこの場所は心地いいところで、その分この場所はお前を受け入れてくれるよ。だから約束しろ、もう無理はすんな。ひとりで立とうとすんな。いつでも、俺に寄りかかれ」
勇太朗の目は真っ直ぐに私を見ていた。