「おはようございます、秋貴様。お疲れ様です」
「おつかれさん!」
「きゃー」

 人々の挨拶に快活な笑顔と会釈を返しながら、本社正面ドアから出て真ん中を堂々と闊歩するスーツの男がいた。愛里は思わず飛びのいて隅にどいた。
 手ぶらのまま、時折誰かに手を振ったりしている。鞄は当然のように周囲に付きそう者が持っていて、どこかへと歩き去っていく。

(そういえば、なおさんは三男だって言っていたな)

 あれがお兄さんなのかな。長男、跡取り……。
 髪の色が、尚貴に似ていた。おそらく兄弟だ。