日曜日に須長くんが柚月の家に遊びに来ることになった。
当日、家に来ることは初めてなので、最寄りの駅で待ち合わせをする。
少し早めに家を出ると、駅前で心臓移植を待つ子供の為に募金活動をしている人たちを見つけた。
どうやら移植を待っているのは、まだ一歳にもならない赤ん坊のようだ。
思わず募金しなきゃと財布を入れていたバックに手をかけると、その列の端に見覚えのある人を見つけた。
須長くんのママだ。
彼は柚月のこと気にかけているようなことを言っていたけど、覚えているか不確かで声をかけづらい。
それと同時に昔の記憶が蘇ってきて怖くもなった。
やっぱり、やめよう。
このまま通りすぎようと決めると
「柚月ちゃん?」
と向こうから声をかけられた。
「あ、もしかして。瑞樹くんの……こんにちは」
「わあ。久しぶりね。大きくなった?」
「はい」
動悸が激しくなる。
自分は移植して助かったくせに募金しないで行こうなんて最悪だ、自分さえ助かればいいのかといった罵声が頭の中に響いてくる。
目の前にいる人たちは、そんなこと誰一人言っていないのに、想像から抜け出せなかった。
とりあえず募金をしてから立ち去ろうと決めたけど、手が震えてバックがうまく開かない。
須長くんのママは、宏臣から聞いてたのよ、学校が同じでしょと話しかけてくる。はいと相槌を打つのに精いっぱいで、早く立ち去りたい思いと恐怖が柚月の身を包んでいく。
ようやくお金を募金箱に入れ終えるも、須長くんのママは、この子、まだ一歳にもならないの。ぜひ助けてあげたい。私みたいな経験してほしくない。柚月ちゃんみたいに助かってほしいと思っているのとお喋りは止まらない様子だ。