なんの話をしているのだろう。
一度声のトーンが低くなり、聞こえなくなったが、
「柚月のことちゃんと守るから、考えて。俺と付き合ってほしい」
と耳に届いた。
ハローくんの手を押さえていた美織の手が力なく落ちた。
再び彼女に目を向けると、俯きながら涙をためていたことに驚いて、つい手を離してしまい扉がタンッと閉まった。
これはどういうことだろうと推測する。
いくら姉思いでも告白されている場面を見て泣くような妹はほぼいない。
きっとこの子は須長くんのことが好きなんだろう。もしくはそれに近い憧れか。
「わっ、バレちゃう」
慌ててハローくんの腕を強引に引っ張り、談話スペースのほうまで連れて行く。
二人で盗み聞きをしていたことを隠したかったのかもしれないが、
「あのさ、ここで二人でいること自体が不自然じゃね?」
「いいから、黙ってて。今聞いたことは聞かなかったふりして」
「なんでそんな気を遣わなきゃいけないの。好きなら好きで素直になればいいじゃん」
思ったことを伝えると、美織はハローくんのすねを勢いよく蹴った。
いいところに入って、
「ぐわっ」
小さくうずくまる。
「だって、好きな人には幸せになってもらいたいじゃん」
そう言って隣にしゃがむと、我慢していた涙がぼろぼろ溢れだした。
生意気な口を利くけど、まだ中学生か。
まだ幼さが残る泣き方だった。