今日は月曜日。

2日ぶりのクラスは相変わらずの空気で、やっぱりお昼休みになると、私は屋上に来ていた。

今日は空が曇っていて、暑すぎもせず寒すぎもせずに、いい天気だ。

「蓮、今日も楽しそうだね」

「あ、実はな。今度、俺恋愛もののドラマに出るんだけど、その相手役がなんとユズさんなんだよ」

そう語り出した蓮。

もう、ここからはいつものパターンだ。

「ユズさんはマジスタイルいいし、顔ちっさいしで超可愛いんだよ。しかも演技も半端なくうまくてさー……」

いつも褒めてくれるのは嬉しいし、有り難いけど恥ずかしいから!!

マジで恥ずかしいから!!

「って俺は、なんでいつもお前に語っちまうんだろうな。ていうかさ、結月はいっつも屋上来るけど、どうして?もしかして、俺に惚れちゃった??」

「なわけないでしょ」

どうしていつもいつも、蓮の思考はそこにいきつくのだろうか。

「だよな。俺も、ユズさんっていう立派な思い他人がいるしな」

そう言って、蓮は笑った。

って、ユズって……私!?

どう反応すればいいのか困っていると、蓮は衝撃的な一言を言い放った。

「もしかして結月、友達いないの?」

「………な、そんなわけないでしょう。私は友達多過ぎて困ってるくらいよ。うん」

しどろもどろになってしまった。

「へー。じゃあ友達の名前、言ってみろよ」

そう返されて困った私は、

「あ、あれよ!クラスのみんなが友達よ!!」

と答えた。

「つまり友達いない上に、1週間経ってもクラスのみんなの名前すら覚えていないと」

「ゔ…」

「図星か?」

………図星です。

と、答えたくなかった私は聞いていないふりをした。

「そういや、結月って何年何組?」

蓮がいきなり聞いてきた。

「2年B組だけど……」

そう返すと、蓮は目を見開いて「マジかよ…」そう小さく呟いたかと思うと、

「結月、明日楽しみにしとけ」

その言葉とともに、私にウィンクをした。

次の日、私はいつも通りに学校へ行った。

そして、いつも通りに2年B組に入ろうとした。

けれど、

「あれ??」

今日はなぜか、教室が騒がしい。

いや、教室が騒がしいのはいつものことだ。

けれど、今日はそのいつもの騒がしさではないのだ。

「キャーー!!」

「カッコいいーー!!」

そう、女の子たちの黄色い声が聞こえてくるのだ。

女の子たちの……

「やっぱり蓮様は最高だわーー!!」

……という叫び声が。

声がした方を見ると、そこは窓際の一番後ろの席で、その周りにはなぜか人だかりができていた。

しかも全員、女の子。

つまり、その席に座ってるのは"蓮様"と呼ばれるカッコいい男の子ということだ。

あー、だから私がその隣の席になった時、女の子たちが睨んできたんだ。

やっと繋がった!!

と、そんなことを考えながらも自分の席に着くと、

「おはよう」

隣の席の"蓮様"に爽やかに声をかけられた。

このクラスで声をかけられるのなんて初めてで、嬉しいなと思いながら「おはよう」と笑顔で言って、隣の席の男の子を見た。

……そして、目が合った。

「って、えっ!?なんで蓮がいるの!???」

びっくりし過ぎて思考が追いつかないでいると、

「ちょっと、あんた。蓮様を呼び捨てにするなんて、何様のつもりよ?」

「そーよ。ダサ子のくせに」

と、蓮の周りにいる女の子たちから文句を言われた。

すると蓮が、

「僕のために言ってくれるのは嬉しいけど、意地悪を言うのは良くないと思うよ」

と言った。

それを聞いた女の子たちは「はい」と渋々と言った顔で覗き、それに笑顔を向けた蓮は席を立ち、私の前まで来ると右手を差し出した。

「僕は鈴木蓮。よろしくね」

そう言って、ウィンクした。

蓮はここでも"僕"なんだ……。

僕…とか。

蓮が僕…とか。

やっぱり何度聞いても、笑える。

そう思いながら私は、

「こちらこそよろしくね」

と言って蓮と握手をした。

私たちが握手をした瞬間、周りにいた女の子たちが、「キャーー!!」と悲鳴を上げた。

「蓮様、私も握手して!!」

そんな声を皮切りに「私も!!」「あ、ずるい私もよ!!」と、再び騒ぎ始めそれを聞きつけた他のクラスの女の子たちもやって来たりして、蓮のミニ握手会は、朝礼が始まるまできっかり30分続いた。

その日の休み時間はずっと、隣の席の周りにたくさんの女の子たちが群がっていた。

お昼休みになると女の子の数がさらに増え、みんな手にお弁当を持って来ていた。

「あんた邪魔よ!」

そんな声が聞こえてきたかと思うと、私は弾き飛ばされた。

そこ、私の席なんだけど……

そう思いながら、同時に何を言っても無駄だと言うこともわかっていた私は、自分のお弁当を持っていつも通りに、屋上へと向かった。

私はすぐに屋上に着いた。

ていうかなによ、なんなのよアイツ。

蓮様とか呼ばれちゃって。

僕……とか、似合わないし。

なぜか今日は半日、隣の様子にイライラしていた。

なんでだろう。

でもここに来ると、やっぱりイライラは薄らいだ。

それにほぼ毎日来ているせいか、安心もする。

「結月。俺が同じクラスで驚いた??」

蓮はそう言って、私の右肩を叩いて隣に座った。

同じクラスなのには、ビックリした。

でも、昨日の時点で言ってくれても良かったんじゃないかって思ってしまった私は、

「別に。ていうか、教室は?いいの?」

と、逆に質問を返した。

「え、なに拗ねてるの?もしかして、結月ちゃん妬いちゃった??」

なんで笑顔で言ってきた。

「なにそれ」

「ははは。冗談だよ、冗談。俺ああいうの、苦手だから」

「蓮様とか呼ばれて、ヘラヘラしてたのに?」

私がそう言うと、蓮は苦笑いした。

「ヘラヘラなんてしてねーし、てか俺はああいう女はマジ嫌いなの。顔目当て、俳優・鈴木蓮、目当てで近づいて俺自身を見てない上に、媚び売ってくるような奴らと普通に話す必要ないだろ。媚びも売ってこないし、顔目当てでも俳優の俺目当てでもないお前とは、普通に話せるし普通に話したいって思うわけ。だから…」

そこで、蓮は言葉を切った。

「だから、なによ」

「だから、結月。お前、俺の友達になれよ」

「なによ、それ」

どうしていきなり、そんなこと……

「だって結月、落ち込んでただろ。友達いないって。だから俺がお前の友達になってやるって言ってんの」

蓮はそう言って、本日二度目のウィンクをした。

そんな蓮に、私は不覚ながらもドキッとした。

でもそんなこと言ったら、なんか負けな気がする。

「蓮のくせに、偉そーに。あ、それか私も蓮様って呼んだ方がいいわけ??」

「蓮のくせにって、なんだよ。……つか、蓮様はやめろ」

「なら、蓮君?」

「なっ///」

私が言うと、蓮は顔を真っ赤にした。

それを見た私は「蓮君、可愛いね」そう懲りずに言った。

「やめろよ。ゆづちゃん」

と言い返してきて、二人で笑った。