〜蓮 Side〜

「悪りぃな、こんな話聞かせちまって」

結月の話を切なげにした大翔さんに、俺は何も言えなくなった。

しばらくすると、大翔さんは明るく話し出した。

「まぁそういう訳でさ、本当は俺がアイツを幸せにしてやりたいよ。アイツも俺を好きだっていうなら、今すぐにだってアイツを連れてどこか遠い、誰も俺たちを知らないところに行って、死ぬまでアイツを愛しぬくよ。けど、そんなのは天と地がひっくり返るくらいにありえない話だから、アイツにとって俺は、大好きなお兄ちゃんでしかない」

そして真剣に、言葉を繋いだ。

「だから結月を、お前に託していいか?」

「何言ってるんですか、大翔さん」

俺は慌てた。

この人、突然何言い出すんだ?

「鈴木、お前になら結月を任せられる」

大翔さんは真剣な目をしている上に、もう俺を鈴木くんとは呼ばなくなった。

「なんで、俺なんですか」

俺は確かに結月が好きだけれど、それだけで結月を任せたりするような人には見えない。

それを聞いた大翔さんは、フッと笑ってゆっくりと口を開いた。

「似てるんだよ。俺とお前」

「似て……る?大翔さんと俺がですか?」

「あぁ」

どこが似ているというのだろう。

全く想像もつかない俺に、戸惑いなく大翔さんはそう言った。

「鈴木くんも結月のことが、好きで好きでたまらないだろ?そして、あの澄んだ綺麗な瞳に惹かれるんだろ?優しくて可愛い結月を、守りたいって思うだろ?」

「はい」

そんなこと………当たり前だ。

俺のことを再び鈴木くんと呼び出した大翔さんに、俺は素直に答えた。

「自分より、結月の幸せを願うだろ?」

「そう……ですね」

できれば俺がって思うけれど、結月が幸せならそれで十分だ。

「それだけの気持ちがあるんならお前に、結月を任せたい。そう、俺は思うんだよ」

そう大翔さんは言った。

「なぁ、鈴木蓮」

「はい」

俺たちの間で緊張した空気が流れた。

そして大翔さんは小さく息を吸い込んでから、ハッキリとした声で、

「結月を、世界一幸せにするって誓ってくれ」

そう紡いだ。

それからしばらく、2人とも何も言葉を発しなかった。

「大翔……さん」

緊迫した中で恐る恐る声を出した俺に、

「俺はもうそろそろ、本気で妹離れしなくちゃならないと思う。でも、アイツを1人にするのは気が気でないから、頼むよ。アイツを……結月を」

大翔さんは、そう言いながらも"結月"という名前を愛おしそうに発した。

俺は、どうすればいいんだ。

俺の気持ちはもうずっと、これから先もきっと変わらない。

「俺は…」

けれど、結月の気持ちは?

わからない。

俺には、全くわからないんだ。

わからないのなら俺は、

「俺は、誓いますよ。アイツを世界一幸せにするって。もしこの先、俺じゃない誰かが結月の隣にいるとしても、友達としてでも結月を幸せにします」

俺のすることは、もう決まった。

結月を、大好きな子を幸せにする。

ただそれだけ。

それは簡単なようで難しいことだ。

けれど、もう決めた。

「鈴木、俺も兄として結月を見守るから、よろしくな」

「はい」

もう俺は、迷わない。

硬い決心をした俺に神妙な顔つきで、大翔さんが声をかけた。

「もう一つ、結月のたった一人の兄として鈴木に頼み事してもいいか?」

「なんですか?」

大翔さんは重たい口を開いて、

「結月がもしも、もしもお前に隠し事をしていても、嫌いにならないでやってくれる?」

「え?隠し事?」

「そう、隠し事。結月は嘘をつかないから、アイツの言葉は本物だから、それだけを信じてやってくれ」

真剣な口調の大翔さんに俺は、

「当たり前じゃないですか。俺は結月を嫌いになんてならないです。というかなれないですよ」

そう言った。

すると大翔さんはふわりと笑って、

「ありがとう」

そう言った。

大翔さんのふわりとした笑顔は、結月にどことなく雰囲気が似ていた。

〜蓮Side End〜