〜蓮 Side〜

撮影が終わってすぐ、変装してならお祭りに行っても良いということになり、中村さんに一緒に回らないかと言われた俺は、どうせならみんなで。

そう思って、ユズさんと加藤さんにも声をかけた。

そうしたらユズさんに「加藤さんと2人で回るから」という理由で、断られてしまった。

そんなユズさんに黙ってついて行った加藤さん。

なんでだよ。

加藤さんには、結月がいるのに。

たとえ昔からの知り合いとはいっても、婚約してる男が、他の女の人とホイホイ祭りに行くなよ。

俺はだんだんとイライラしてきた。

中村さんが俺に何か話していたようだったけれど、それさえも話に入らず、俺は1人で祭りの中、歩き回っていた。

そうしてしばらくすると、少し離れたところから、

「好きだよ」

「え?」

そんな会話が聞こえてきた。

人の告白なんて盗み聞きするもんじゃない。

そう思って、俺はすぐにその場から離れようとした。

けれど次の瞬間、俺の耳に入ってきたのは、

「大翔、大好き」

あれ、大翔って確か…加藤さんの名前だよな。

いやいや、人違いだろ。

そう思いながらも、俺は声のした方を見てしまった。

そして、俺は目を疑った。

「知ってる」

そう言って、告白した女の子を"大翔"と呼ばれた男が抱きしめた。

その人たちはお面をつけていたけれど、着ているものからして、紛れもなくさっきまで俺と一緒に撮影していた加藤さんと、ユズさんと全く同じ格好をしていた。

「加藤さん………?」

俺は思わず声をかけてしまった。

あぁ、すごくイライラする、

そのせいもあって、今まで出したことないくらいに、とても低い声が出た。

「加藤さん、ちょっといいですか?」

そんな俺に軽く、

「あぁ、いいよ」

なんて言って、加藤さんは俺についてきた。

しばらくして誰もいないところに着くと、加藤さんはお面を外して、

「どうした?鈴木くん」

そう言って、にこやかに笑った。

どうした?って、そんなのわかるはずなのに…

「どうして……」

「ん?」

「どうしてユズさんを抱きしめてたんですか!?」

俺は声を張り上げた。

「加藤さんには、結月がいるじゃないですか!!なのに、どうして他の女の人を抱きしめるんですか!?結月の気持ち考えろよ!」

そう一気に言った俺。

なのに、

「だから?」

そう一言、加藤さんの口からぴしゃりと発せられた。

「だから何かな?君にとやかく言われる筋合いはないと思うよ?」

そう言われて、俺は固まった。

確かにそうだ。

俺には、なんの権利もない。

だけど、

「ダメなんですか?好きな女に、幸せになってもらいたいって思ったら、ダメなんですか!!?」

たとえ結月の隣にいるのが俺でなくても、彼女が幸せならそれで良い。

だから、

「結月のこと、ちゃんと幸せにしてくださいよ。じゃないと俺、諦めきれないじゃないですか!」

そう言った俺に聞こえてきたのは、

「プハハハハ!!」

目の前にいる加藤さんの、大爆笑する声だった。

「なんで笑ってるんですか?俺は真剣に話しているんですよ?」

笑い続ける加藤さんに俺がそう言うと、加藤さんは軽く咳払いをして、

「悪りぃな。けどお前、やっと言ったな」

ニヤリと含み笑いをする加藤さん。

「何がです?」

俺は一瞬、何のことか分からなくて聞き返すと、

「結月が好きだって、やっと認めたな」

そう言われて、しまった…と思った。

この人には一生、言わないつもりでいたけど、口に出してしまったことは仕方がない。

「そうですよ。俺は結月が好きです。大好きです。でも、結月はあなたが好きだから、俺は諦めなくてはいけないんです。だから俺が諦めるためにも、あなたが結月を絶対に、世界一幸せにするって誓ってください!!」

そう真剣に伝えたのに、

「悪いが、それはできない」

そう加藤さんは言った。

「なんで……」

そう聞いた俺に、

「まず一つ、良いこと教えてやる」

加藤さんは、衝撃的なことを言ってきた。

「結月と俺は、婚約なんてしてねーよ」

「え?」

訳がわからなかった。

あんなに仲よさそうにしていた2人。

婚約してない?

でも、

「好き同士、ですよね?」

「あぁ」

婚約してないだけで結局、同じことじゃないか。

そう思っていると、

「俺の言い方が悪かったな」

そう言って、加藤さんは笑う。

どういうことだ?

加藤さんは続ける。

「俺と結月は好き同士だけど、そういう恋人とかじゃないんだよ」

なら、いったい………

「俺ら、兄妹なんだよ」

あー、そうか。

って、

「え???」

俺はビックリしすぎてそれ以上、何も言葉を発せなかった。

嘘だろ?

「加藤っていうのは芸名でさ、本名は佐藤大翔っていうんだ」

嘘にしては、やけにリアルだな。

「本当……なんですか?」

「あぁ」

本当、なんだ。

マジで、本当なんだ。

……だけどそういえば、

「結月って、加藤さんのこと……」

名前で呼びますよね?

そう聞こうとすると、

「あ、俺には妹がいるってマスコミには公表してねーから、昔からずっと名前で呼ばせてる」

「……」

もう、開いた口がふさがらない。

「ごめんな、婚約者だなんて嘘ついて」

本当だよ。

「でも何で、あんな嘘ついたんですか?」

そう聞いた俺に加藤さん、いや大翔さんは真剣な顔をして言った。

「俺の可愛い結月に、悪い虫がつかないようにするためだ」

「え?」

「だって結月、可愛いからな。もう昔っから可愛いしモテるし、素直で純粋無垢で。変な奴に引っかからないか、心配で心配で仕方ないんだよ」

目を輝かせながら言う大物俳優、加藤大翔さん。

いやいや、ちょっと待て。

この人、かなり……

「あ、お前今、俺のことシスコンだと思っただろ」

「…………はい」

そりゃあ思いますよ。

「それは違う」

シスコンではないと言い張る大翔さん。

あんなに結月を溺愛してるのに。

そして大翔さんは続けた。

「いや、本当はその通りなのかもしれないけれど、俺の気持ちとしてはそうじゃない」

どこが違うんだ?

「俺は…」

黙って考えていた俺に、大翔さんは語り出した。

「俺は結月を妹だなんて思えない」

「え??」

「俺は結月のことを、愛してる………」

大翔さんのそんな囁きにも似た小さな声が、空に弾けて消えた。

〜蓮Side End〜