「凛」
私を熱い瞳で見つめる彼。
「なぁに?湊」
私はドキドキしながらも、それを悟られないようにゆっくりと聞き返す。
「土曜日、空いてる?俺と花火、見に行かない?」
「えっ?湊と?」
「そ、俺と」
「莉子ちゃんも?」
「んーん。俺と凛、2人で」
「行く」
私は頬を赤く染めながら、そう答えた。
「カットーー!!」
そう叫んでから監督はいつものように、
「2人ともいいよ!!2人とも好きなのになかなか好きって言えない、そのもどかしさに胸が締め付けられるよ!!2人とも格好良くて可愛くて、最高だねー!!!」
いつものように大げさに褒めてくださる。
私と蓮は顔を見合わせて笑った。
今日は午前中に学校で終業式があった。
もう、いつの間にか夏休みなのだ。
今日は学校では、蓮はかなりぼーっとしているように見えたのに、撮影現場では何事も完璧にやりこなす蓮に、私は脱帽した。
これから約一ヶ月半、結月としては蓮と会わないことになる。
ドラマの撮影は、着々と進んでいる。
湊が凛を誘った花火大会。
その花火大会でキーになってくるのが、大翔演じる、吉田悠真(よしだゆうま)先輩だ。
告白するつもりで誘った湊と、そんなことは知らずに一緒に花火大会に来た凛が、中学の時に凛の先輩だった悠真先輩と、ばったり会って親しげに話しかけられるのだ。
そしてそれを見て湊は、凛は悠真先輩が好きなんだと思い、すれ違う。
そんな切ないシーンだ。
その花火大会のシーンは、来週末に実際行われるお祭りで、打ち上げられる花火をバックに撮るそうだ。
一度しか撮るチャンスがないから、リハーサルを何度もして、完璧な状態にしてその日の撮影に挑む。
今からとても楽しみだ。
けれど、花火のシーンを撮り終わった次の日には、大翔はアメリカに帰ってしまう。
それを考えると、なんだか寂しくなる。
大翔は、やっぱり大好きなお兄ちゃんだから。
ずっと一緒にいられたら良いのに…
なんて思っていることは、本人には言ってあげないけれど。
リハーサルを繰り返し、立ち位置や台詞を何度も念入りに確認して、とうとう花火大会の日が、撮影の日がやってきた。
「湊、お待たせ」
そう言って紺色に赤い花柄の浴衣を着た凛が、小走りで湊の元までやってきた。
「そんな待ってないよ。……浴衣、似合ってる」
照れたように言う湊に、凛も頬を染めた。
「行こっか」
そうして2人は寄り添うようにして歩き出した。
しばらく屋台を見て、途中食べたりしながら歩く2人。
そしていつの間にか、バーンッ!
大きな音とともに、夜空に綺麗な花火が上がっていた。
「花火、綺麗だね」
空を眺めてうっとりとそう言う凛。
そんな凛に見惚れながら、湊はついに告白をしようと、口を開いた。
「あのさ、り……」
「あれ、凛ちゃん?」
湊の声に重なって、凛は誰かに不意に声をかけられた。
凛は、そちらの方に振り返った。
すると、
「悠真先輩!!」
中学の時の先輩がいた。
「お久しぶりです」
「久しぶり。中学の時以来だね」
「はい」
親しげに話を始める2人に、落ち着きがなくなる湊。
そんな湊に、
「あ、俺は凛ちゃんと同じ中学だった吉田悠真っていうんだ。よろしくね」
ニコッと笑った悠真に凛は続ける。
「一つ上の先輩だよ。こちらは同じクラスの湊です」
そう凛に紹介されて、
「ども」
素っ気なく挨拶する湊。
「じゃあね、凛ちゃん。また連絡ちょうだい」
「はい。また」
しばらく凛と話してから、悠真は去っていった。
「凛ってさ」
悠真が去ってから、遠慮がちに口を開いた湊。
「もしかして、さっきの先輩のこと……」
好きなの?
そう聞こうとして、やめた湊。
「なぁに?」
凛が訊ねた時だった。
「湊?やっぱり来てたんだ」
明るい声で、遠くから莉子が話しかけてきた。
そして湊の目の前まで歩いてきて、
「あれだけ来ないって言ってたのに、結局来たんだ」
そう言いかけて、ふと湊の隣に凛がいることに気づいて、
「あ、凛ちゃんと一緒だったわけね」
そう言った。
莉子は湊が凛のことを好きだと知っている。
だから今日、湊がどんな目的で凛と一緒にいるのか、一瞬にして見破った。
湊は、凛に告白するつもりなのだと。
「莉子」
湊が莉子に目をやると、
「わかってるって」
邪魔者は消えるわよ。
そんな意味を込めて、莉子は笑った。
けれどそんなことは露ほども知らない凛は、
「私……帰るね」
そう言った。
「え?凛……」
「またね、湊。莉子ちゃんも」
呼び止める湊の声も聞かず、凛は走り去っていった。
目に涙を浮かべながら……。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
「お疲れ様でした」
「お疲れ様!!いやーユズちゃん。さっきの演技、良かったよ」
監督にそう言われて私は、
「ありがとうございます」
そう返事をした。
撮影が無事に終わって今は、撮り直す必要がないかをきちんとチェックをしている。
しばらくして、
「よし、今日はみんなお疲れ様でした。花火のシーンも無事撮れたので、今日は解散です。良かったらここに、ウィッグとか眼鏡とかその他もろもろあるので、これを使ってお祭りの方を楽しんで下さい」
そう言ってニヤリと笑った。
それを聞いた葵ちゃんがすかさず、
「蓮先輩。良かったら一緒に回りませんか?」
そう蓮に話しかけた。
すると蓮は笑って、
「あ、ならユズさんたちも一緒にどうです?」
私と大翔を誘った。
「あ、なら……」
そう言いかけた大翔を遮って、
「私たちは2人で回るから、蓮くんたちも楽しんできなよ?」
と、私は言った。
「え?ユズさん……??」
目を丸くしている蓮に気づかないふりをして、私は大翔の腕を引っ張り、その場から離れた。
「良かったのか?」
黙ってついてきてくれた大翔がしばらくして、そう聞いてきた。
「いいに決まってるじゃん」
そう私が言うと大翔は、
「そうか」
と呟いた。
だって蓮は葵ちゃんが好きで、葵ちゃんも蓮のことが好き。
2人は両想いなんだよ?
邪魔しちゃダメだって。
ちゃんと2人が素直になれるように、応援してあげないと。
「大翔、明日にはアメリカ帰っちゃうんでしょ?なら今日はたくさん思い出作ろ?」
そう言った私に、
「仕方ないなぁ。付き合ってやるか」
と、偉そうな言い方で大翔は返してきた。
しばらく歩いていると、お面屋さんが見えてきた。
さっき、私が急いで大翔を引っ張ってきちゃったから、私たちは変装できていなかった。
だから、お面をかぶって顔を隠すことにした。
大翔とお揃いのお面をして、またしばらく歩いていると、私の大好きなものが見えてきた。
「りんご飴だー!!」
「お前、昔から好きだよな、りんご飴」
そう、夏祭りといったらりんご飴!
私は小さい頃から、お祭りのたびにりんご飴を食べるのが好きなのだ。
笑いながらも、大翔は私にりんご飴を買ってくれた。
「ありがとう、大翔!」
「どういたしまして」
私はりんご飴を食べるために、お面を外した。
けれど一般のお客さんにバレないようにするために、私たちは人通りが少ないところへと向かった。
「大翔、好きだよ?」
りんご飴を食べ終わって、またお面をつけた私がそう言うと、
「お前は、りんご飴を買ってくれたら誰でも好きなんだろ?」
大翔は拗ねたようにそう言った。
「そうだよ」
「いやいや、そこは否定しろよ!兄ちゃん、お前が心配で、アメリカ行けなくなっちゃうよ」
2人で目を見合わせて、笑った。
「でも私、好きだよ」
「え?」
「大翔、大好き」
大翔は私の大好きな、大好きなお兄ちゃんだよ?
大翔はフッと笑うと、
「知ってる」
そう言って、私をギュッと抱きしめた。
「加藤さん……??」
不意にどこからか声がして、大翔は私を抱きしめる腕を少し緩めた。
私たちお面をしてるはずなのに、どうしてわかるんだろう……。
声の主がだんだんとこちらに近づいてきて、大翔は私を腕の中から解放した。
そして、その人がはっきりと見えた。
そっか、私たちお面はしてるけど着ているものはさっきと変わってないんだ。
まさに頭隠して尻隠さずだ。
茶色い髪に黒ぶちの眼鏡という、前に見たときと同じ変装をした彼がだんだんと、こちらへ向かってくる。
「れ、ん……」
私が小さくそう呟くと、
「鈴木?」
大翔は顔を歪ませてそう言った。
「加藤さん、ちょっといいですか?」
とても低い声で、蓮はそう言った。
そんな蓮に大翔は軽く、
「あぁ、いいよ」
そう返し、
「ユズちゃんは帰りなね?」
そう言って、蓮と一緒に歩いて行った。
私を熱い瞳で見つめる彼。
「なぁに?湊」
私はドキドキしながらも、それを悟られないようにゆっくりと聞き返す。
「土曜日、空いてる?俺と花火、見に行かない?」
「えっ?湊と?」
「そ、俺と」
「莉子ちゃんも?」
「んーん。俺と凛、2人で」
「行く」
私は頬を赤く染めながら、そう答えた。
「カットーー!!」
そう叫んでから監督はいつものように、
「2人ともいいよ!!2人とも好きなのになかなか好きって言えない、そのもどかしさに胸が締め付けられるよ!!2人とも格好良くて可愛くて、最高だねー!!!」
いつものように大げさに褒めてくださる。
私と蓮は顔を見合わせて笑った。
今日は午前中に学校で終業式があった。
もう、いつの間にか夏休みなのだ。
今日は学校では、蓮はかなりぼーっとしているように見えたのに、撮影現場では何事も完璧にやりこなす蓮に、私は脱帽した。
これから約一ヶ月半、結月としては蓮と会わないことになる。
ドラマの撮影は、着々と進んでいる。
湊が凛を誘った花火大会。
その花火大会でキーになってくるのが、大翔演じる、吉田悠真(よしだゆうま)先輩だ。
告白するつもりで誘った湊と、そんなことは知らずに一緒に花火大会に来た凛が、中学の時に凛の先輩だった悠真先輩と、ばったり会って親しげに話しかけられるのだ。
そしてそれを見て湊は、凛は悠真先輩が好きなんだと思い、すれ違う。
そんな切ないシーンだ。
その花火大会のシーンは、来週末に実際行われるお祭りで、打ち上げられる花火をバックに撮るそうだ。
一度しか撮るチャンスがないから、リハーサルを何度もして、完璧な状態にしてその日の撮影に挑む。
今からとても楽しみだ。
けれど、花火のシーンを撮り終わった次の日には、大翔はアメリカに帰ってしまう。
それを考えると、なんだか寂しくなる。
大翔は、やっぱり大好きなお兄ちゃんだから。
ずっと一緒にいられたら良いのに…
なんて思っていることは、本人には言ってあげないけれど。
リハーサルを繰り返し、立ち位置や台詞を何度も念入りに確認して、とうとう花火大会の日が、撮影の日がやってきた。
「湊、お待たせ」
そう言って紺色に赤い花柄の浴衣を着た凛が、小走りで湊の元までやってきた。
「そんな待ってないよ。……浴衣、似合ってる」
照れたように言う湊に、凛も頬を染めた。
「行こっか」
そうして2人は寄り添うようにして歩き出した。
しばらく屋台を見て、途中食べたりしながら歩く2人。
そしていつの間にか、バーンッ!
大きな音とともに、夜空に綺麗な花火が上がっていた。
「花火、綺麗だね」
空を眺めてうっとりとそう言う凛。
そんな凛に見惚れながら、湊はついに告白をしようと、口を開いた。
「あのさ、り……」
「あれ、凛ちゃん?」
湊の声に重なって、凛は誰かに不意に声をかけられた。
凛は、そちらの方に振り返った。
すると、
「悠真先輩!!」
中学の時の先輩がいた。
「お久しぶりです」
「久しぶり。中学の時以来だね」
「はい」
親しげに話を始める2人に、落ち着きがなくなる湊。
そんな湊に、
「あ、俺は凛ちゃんと同じ中学だった吉田悠真っていうんだ。よろしくね」
ニコッと笑った悠真に凛は続ける。
「一つ上の先輩だよ。こちらは同じクラスの湊です」
そう凛に紹介されて、
「ども」
素っ気なく挨拶する湊。
「じゃあね、凛ちゃん。また連絡ちょうだい」
「はい。また」
しばらく凛と話してから、悠真は去っていった。
「凛ってさ」
悠真が去ってから、遠慮がちに口を開いた湊。
「もしかして、さっきの先輩のこと……」
好きなの?
そう聞こうとして、やめた湊。
「なぁに?」
凛が訊ねた時だった。
「湊?やっぱり来てたんだ」
明るい声で、遠くから莉子が話しかけてきた。
そして湊の目の前まで歩いてきて、
「あれだけ来ないって言ってたのに、結局来たんだ」
そう言いかけて、ふと湊の隣に凛がいることに気づいて、
「あ、凛ちゃんと一緒だったわけね」
そう言った。
莉子は湊が凛のことを好きだと知っている。
だから今日、湊がどんな目的で凛と一緒にいるのか、一瞬にして見破った。
湊は、凛に告白するつもりなのだと。
「莉子」
湊が莉子に目をやると、
「わかってるって」
邪魔者は消えるわよ。
そんな意味を込めて、莉子は笑った。
けれどそんなことは露ほども知らない凛は、
「私……帰るね」
そう言った。
「え?凛……」
「またね、湊。莉子ちゃんも」
呼び止める湊の声も聞かず、凛は走り去っていった。
目に涙を浮かべながら……。
ーーーーーーーーーー
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「お疲れ様でした」
「お疲れ様!!いやーユズちゃん。さっきの演技、良かったよ」
監督にそう言われて私は、
「ありがとうございます」
そう返事をした。
撮影が無事に終わって今は、撮り直す必要がないかをきちんとチェックをしている。
しばらくして、
「よし、今日はみんなお疲れ様でした。花火のシーンも無事撮れたので、今日は解散です。良かったらここに、ウィッグとか眼鏡とかその他もろもろあるので、これを使ってお祭りの方を楽しんで下さい」
そう言ってニヤリと笑った。
それを聞いた葵ちゃんがすかさず、
「蓮先輩。良かったら一緒に回りませんか?」
そう蓮に話しかけた。
すると蓮は笑って、
「あ、ならユズさんたちも一緒にどうです?」
私と大翔を誘った。
「あ、なら……」
そう言いかけた大翔を遮って、
「私たちは2人で回るから、蓮くんたちも楽しんできなよ?」
と、私は言った。
「え?ユズさん……??」
目を丸くしている蓮に気づかないふりをして、私は大翔の腕を引っ張り、その場から離れた。
「良かったのか?」
黙ってついてきてくれた大翔がしばらくして、そう聞いてきた。
「いいに決まってるじゃん」
そう私が言うと大翔は、
「そうか」
と呟いた。
だって蓮は葵ちゃんが好きで、葵ちゃんも蓮のことが好き。
2人は両想いなんだよ?
邪魔しちゃダメだって。
ちゃんと2人が素直になれるように、応援してあげないと。
「大翔、明日にはアメリカ帰っちゃうんでしょ?なら今日はたくさん思い出作ろ?」
そう言った私に、
「仕方ないなぁ。付き合ってやるか」
と、偉そうな言い方で大翔は返してきた。
しばらく歩いていると、お面屋さんが見えてきた。
さっき、私が急いで大翔を引っ張ってきちゃったから、私たちは変装できていなかった。
だから、お面をかぶって顔を隠すことにした。
大翔とお揃いのお面をして、またしばらく歩いていると、私の大好きなものが見えてきた。
「りんご飴だー!!」
「お前、昔から好きだよな、りんご飴」
そう、夏祭りといったらりんご飴!
私は小さい頃から、お祭りのたびにりんご飴を食べるのが好きなのだ。
笑いながらも、大翔は私にりんご飴を買ってくれた。
「ありがとう、大翔!」
「どういたしまして」
私はりんご飴を食べるために、お面を外した。
けれど一般のお客さんにバレないようにするために、私たちは人通りが少ないところへと向かった。
「大翔、好きだよ?」
りんご飴を食べ終わって、またお面をつけた私がそう言うと、
「お前は、りんご飴を買ってくれたら誰でも好きなんだろ?」
大翔は拗ねたようにそう言った。
「そうだよ」
「いやいや、そこは否定しろよ!兄ちゃん、お前が心配で、アメリカ行けなくなっちゃうよ」
2人で目を見合わせて、笑った。
「でも私、好きだよ」
「え?」
「大翔、大好き」
大翔は私の大好きな、大好きなお兄ちゃんだよ?
大翔はフッと笑うと、
「知ってる」
そう言って、私をギュッと抱きしめた。
「加藤さん……??」
不意にどこからか声がして、大翔は私を抱きしめる腕を少し緩めた。
私たちお面をしてるはずなのに、どうしてわかるんだろう……。
声の主がだんだんとこちらに近づいてきて、大翔は私を腕の中から解放した。
そして、その人がはっきりと見えた。
そっか、私たちお面はしてるけど着ているものはさっきと変わってないんだ。
まさに頭隠して尻隠さずだ。
茶色い髪に黒ぶちの眼鏡という、前に見たときと同じ変装をした彼がだんだんと、こちらへ向かってくる。
「れ、ん……」
私が小さくそう呟くと、
「鈴木?」
大翔は顔を歪ませてそう言った。
「加藤さん、ちょっといいですか?」
とても低い声で、蓮はそう言った。
そんな蓮に大翔は軽く、
「あぁ、いいよ」
そう返し、
「ユズちゃんは帰りなね?」
そう言って、蓮と一緒に歩いて行った。