「スペシャルゲストの加藤さんです」

「加藤大翔です。凛の先輩役として第4話と第5話に出演させていただくことになりました。これから約2週間、よろしくお願いします」

丁寧な言葉遣いで、さらっとそう言った大翔。

そんな大翔を私はただ茫然として見ていた。

「大翔……くん?」

「久しぶりだね、ユズちゃん」

口元を悪戯っぽくあげながらそう言う大翔は、確信犯だ。

昨日も今日の朝も何も言っていなかったのに、どうしてここにいるのよ。

なんで教えてくれなかったのよ。

そう言いたいのは山々だけれど、そう口に出せない私は、目で訴えた。

それをわかっていながら、大翔は涼しい顔をしている。

本当ならここで大翔に問い詰めたいけれど、私たちが兄妹だということは、マスコミには伏せてあるから、だから私たちがむやみにやたら仲良くしてしまったら、変なスキャンダルになりかねない。

「久しぶり」

そう考えながら、私は一言だけ返した。

「加藤さん……」

大翔を見て驚いている人が、私の他にもう一人。

「やぁ、鈴木くんだよね?」

……そう蓮だ。

今日は火曜日だけれど、学校はお休みだった。

なんでも昨日受けた、テストの採点日だとか。

明日そのテストが返ってきて、明後日の終業式に出たらもう夏休みになる。

遊園地に行ってから、結月として蓮とどう接すればいいのか分からなくなっていたから、会う日が減るのはいいことなんだと思う。

蓮の憧れのユズとして接することを続けていつか、忘れられたらって思う。

好きだけど好きでいるのが辛いから、この夏休みにきちんと、この想いにケリをつけようと思う。

けど今日、学校がなかったせいで蓮にはまだ、大翔が結月の婚約者ではなく兄妹だと言えていない。

ユズの私が言うわけにもいかないし、大翔は訂正なんてしないだろうし……。

変なことにならなければいいけど。

…私のそんな願いは、大翔によっていとも簡単に壊された。

「鈴木くんは、結月と同じクラスなんだよね?」

「はい、そうです」

丁寧な物腰で答えた蓮に大翔は、

「いいなぁ、同じクラス。俺は学年違うから、一緒のクラスになれたことないんだよね」

そう言った。

それを聞いて、

「結月とはいつから?」

なんて聞き返した蓮に、

「結月が生まれたときからずっと一緒だよ」

そう答えた。

確かに兄妹だからね。

ずっと一緒にいなくても、昔からよくお互いをわかっているのは確か。

でも、なんか意味が違う気が……

「生まれたときからですか?」

そう口に出した蓮に、

「あぁ、そうだよ。アイツがめちゃくちゃ小さいときから"やまとー"って言ってどこに行くときも俺にくっついてきて、アイツが3歳の時だったかな……"大翔、大好き"なんて言って抱きつかれたときにはもう、たまんなかった。マジで可愛かったなぁ。あ、もちろん今もすごく可愛いけどね」

そう言って笑う大翔。

あーそういえば、そんなこと言ったかなー。

って!!蓮、絶対に誤解しちゃうよ!!

あぁ、もう私たちのことに関して蓮に訂正を入れるのは無理かもしれない。

そう思っていると、大翔の暴走はさらに続いた。

「そういえばさ、ユズちゃんって結月と仲良いよね?」

大翔はニヤニヤとしながら、私に話を振ってきた。

私がどう答えようか迷っていると、

「昔、よく一緒に遊んだよね?」

なんて続けてきた。

「そうだね」

もう、本当に最悪だ。

「そうなんですか?」

すかさず蓮が聞いてきた。

そしてそれに大翔が答える。

「そうだよ。それに2人とも好きなものとか嫌いなものとか同じなんだよ。ね、ユズちゃん」

「うん」

そう答えるしかなかった。

大翔はかなりご機嫌に、結月の話を続けた。

ああ、これからどうなってしまうんだろう。

そう、不安にならずにはいられない1日だった。

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私が家についてソファーに座ってしばらくすると、

「ただいま」

と言う声とともに玄関の扉がガチャリと開いた。

「……」

私は何も返す気にはなれず黙っていると、

「結月、怒ってんの?」

そう言って、大翔は私の頭を撫でながら隣に座ってきた。

「怒ってるっていうか…なんであんな変なことを蓮に吹き込むのよ」

そう私が言うと、

「だって、妹の好きな奴がどんな奴がきちんと見極めたいじゃん」

なんて澄ました顔で答えてきた。

「そんなんじゃないし」

好きだけど、好きじゃ…ない。

それに、

「それに、蓮は…」

「鈴木がどうかしたのか?」

「好きな子、いるし」

「へー、お前の知ってる子?」

「うん。葵ちゃん」

人のことをペラペラ話すのはダメだと知りながらも、大翔なら安心できるかなと話してしまう。

するとかなりビックリした様子で、

「は?本人がそう言ったのか?」

そう聞いてきた。

「ううん。世界一可愛くて、守ってあげたくなる子だって言ってた」

あんなに愛おしそうに彼女のことを話していた。

私には到底かなわない。

「へー。それでも結月はアイツが好きなんだろ?」

「だから…」

「周りとか関係なしに、お前の気持ちはそうなんだろ?自分自身に嘘はつくな」

そう言われると、何も言い返せない。

好きじゃない。

だって辛いから。

好きだって思うと苦しいから。

でも、それでもやっぱり…

「好き……」

結局、私の気持ちはそこにいきつくんだ。

私の頬には涙が流れていた。

「結月が鈴木のことばっかり見つめるもんだから、兄ちゃん妬いちゃったよ」

大翔がわざとおどけて言う。

それにハハハと笑って、

「大翔も大好きだよ。ありがとうね」

私はそう言った。

「おっ、鈴木は好きで俺は大好きなんて嬉しいじゃねーか」

そう言って大翔は調子に乗ったふりをして、私を何度も笑わせてくれた。