「きれーい。ね、蓮も下見ようよ。すっごい綺麗だよ」
「本当だ。綺麗」
私たちは今、観覧車に乗っている。
お昼ご飯に人生初の鯛焼きを食べてからかなりの時間が過ぎ、夏といえども、もう日は上がっておらず窓の外には、綺麗な夜景が広がっている。
「なぁ、結月」
「ん?」
私が外を眺めながらそう返すと肩を掴まれて、
「結月に、聞いて欲しいことがある」
そんな声とともに私の目に入ってきたのは、蓮のあの真剣な眼差しだった。
私は心臓を鷲掴みされたような感覚になる。
この瞳からは、逃れられない……
「俺さ、この前ユズさんに自分の気持ち伝えたんだ」
「そ、そーなんだ」
知ってるよ、なんて言えない。
私は今、結月であってユズではないんだから。
「ユズさん、俺のこと覚えていてくれたんだ。もう10年も昔のことなのに、それがすごく嬉しかった」
そういう蓮に、私は嫌な予感がした。
「でも俺にとってサラさんは、好きな人ではなくて憧れの人だったんだ」
"やっぱり"そう思った。
私の嫌な予感は的中した。
どうして私はこんなにも心が苦しくなることを、二度も聞かなくてはならないんだろう。
苦しい。
苦しいよ。
好きなのに、言えない。
伝えられない。
伝えようとしたって、困らせるだけだから。
だって蓮は……………
「俺、本当に好きだって思う女の子ができたんだ」
やだ、聞きたくない。
「その子を見てると飽きないし、一緒にいて楽しいし、安心できる。世界中のどんなものからも守ってあげたくなるだ」
知ってるよ。
この前、聞いたばかりだもの。
でもやっぱり、聞きたくないよ。
聞きたくなかったよ。
そんなに愛おしそうに蓮が他の子のことを、葵ちゃんのことを話すところなんて、見たくないよ。
なのに蓮は、そんな私にさらに追い討ちをかける。
「その子はさ、この世で一番可愛くて、綺麗な目をしてるんだ。その綺麗な目を見てると吸い込まれそうになる。そして、そのまま吸い込まれたいって思うくらいに、好きで好きで仕方ないんだ」
「そんなに、その子が好きなんだ」
そう問いかけた私に、
「大好き」
そう一言で返してきた。
………どうしよう。
他の子に向けた"好き"だとわかっているのに、ドキッとした。
「そんなに好きなら、」
いきなり大きな声を出した私に、蓮はピクリと反応を示した。
「そんなに好きなら、その子と来ればよかったじゃん。私なんか誘って、その子の話なんかしないでさ、その子本人と遊園地でもどこでも行けばいいじゃん」
私は一気に言った。
「結月………」
蓮が声を発したちょうどその時、私たちの乗っていた観覧車が地上についた。
私はすぐに降り、そして目一杯に走って遊園地を後にした。
後ろは振り向かなかった。
こんな顔、蓮には見せられない。
自分が今、ジェットコースターで絶叫している顔なんて比べ物にならないくらいに酷い顔をしているのが、鏡を見なくてもわかる。
嫉妬に歪んだこんな顔、見せたくない。
私の両目には、いつの間にか大量の涙が溢れていた。
「やっちゃった」
誰もいないところで力なくしゃがみこんで、私はそう呟いた。
やっちゃった。
あんなこと言うつもりじゃなかったのに、友達として"頑張れ"って言うつもりだったのに、こんなのただ困らせてるだけじゃんか。
友達としても最悪じゃないか。
でもやっぱり嫌だったんだ。
私には耐えられなかったんだ。
ユズの時ですら傷ついたのに、結月のときに耐えられるはずがないよ。
どちらも本当の自分だけど、気の貼り方が違うんだ。
女優のユズの時はプロとして、全神経を集中させているから、自分の感情を隠すこともできる。
けれど、結月はただの女子高生だから、秘密が多いだけの普通の女子高生だから…
特に蓮の前では気なんか弛みっぱなしで、自分の感情に正直になってしまう。
好きって気持ちが、溢れてしまう。
「もう、やだよ」
そう呟きながら、私は空を見上げた。
「こんなに辛いなら、好きになんてなりたくなかった……」
けれどやっぱり、
「大好きなんだよ……」
見上げた空はいつも学校の屋上から見るのと、さほど変わりはないはずなのに、いつもよりもずっと、ずーっと遠くに感じられた。
「本当だ。綺麗」
私たちは今、観覧車に乗っている。
お昼ご飯に人生初の鯛焼きを食べてからかなりの時間が過ぎ、夏といえども、もう日は上がっておらず窓の外には、綺麗な夜景が広がっている。
「なぁ、結月」
「ん?」
私が外を眺めながらそう返すと肩を掴まれて、
「結月に、聞いて欲しいことがある」
そんな声とともに私の目に入ってきたのは、蓮のあの真剣な眼差しだった。
私は心臓を鷲掴みされたような感覚になる。
この瞳からは、逃れられない……
「俺さ、この前ユズさんに自分の気持ち伝えたんだ」
「そ、そーなんだ」
知ってるよ、なんて言えない。
私は今、結月であってユズではないんだから。
「ユズさん、俺のこと覚えていてくれたんだ。もう10年も昔のことなのに、それがすごく嬉しかった」
そういう蓮に、私は嫌な予感がした。
「でも俺にとってサラさんは、好きな人ではなくて憧れの人だったんだ」
"やっぱり"そう思った。
私の嫌な予感は的中した。
どうして私はこんなにも心が苦しくなることを、二度も聞かなくてはならないんだろう。
苦しい。
苦しいよ。
好きなのに、言えない。
伝えられない。
伝えようとしたって、困らせるだけだから。
だって蓮は……………
「俺、本当に好きだって思う女の子ができたんだ」
やだ、聞きたくない。
「その子を見てると飽きないし、一緒にいて楽しいし、安心できる。世界中のどんなものからも守ってあげたくなるだ」
知ってるよ。
この前、聞いたばかりだもの。
でもやっぱり、聞きたくないよ。
聞きたくなかったよ。
そんなに愛おしそうに蓮が他の子のことを、葵ちゃんのことを話すところなんて、見たくないよ。
なのに蓮は、そんな私にさらに追い討ちをかける。
「その子はさ、この世で一番可愛くて、綺麗な目をしてるんだ。その綺麗な目を見てると吸い込まれそうになる。そして、そのまま吸い込まれたいって思うくらいに、好きで好きで仕方ないんだ」
「そんなに、その子が好きなんだ」
そう問いかけた私に、
「大好き」
そう一言で返してきた。
………どうしよう。
他の子に向けた"好き"だとわかっているのに、ドキッとした。
「そんなに好きなら、」
いきなり大きな声を出した私に、蓮はピクリと反応を示した。
「そんなに好きなら、その子と来ればよかったじゃん。私なんか誘って、その子の話なんかしないでさ、その子本人と遊園地でもどこでも行けばいいじゃん」
私は一気に言った。
「結月………」
蓮が声を発したちょうどその時、私たちの乗っていた観覧車が地上についた。
私はすぐに降り、そして目一杯に走って遊園地を後にした。
後ろは振り向かなかった。
こんな顔、蓮には見せられない。
自分が今、ジェットコースターで絶叫している顔なんて比べ物にならないくらいに酷い顔をしているのが、鏡を見なくてもわかる。
嫉妬に歪んだこんな顔、見せたくない。
私の両目には、いつの間にか大量の涙が溢れていた。
「やっちゃった」
誰もいないところで力なくしゃがみこんで、私はそう呟いた。
やっちゃった。
あんなこと言うつもりじゃなかったのに、友達として"頑張れ"って言うつもりだったのに、こんなのただ困らせてるだけじゃんか。
友達としても最悪じゃないか。
でもやっぱり嫌だったんだ。
私には耐えられなかったんだ。
ユズの時ですら傷ついたのに、結月のときに耐えられるはずがないよ。
どちらも本当の自分だけど、気の貼り方が違うんだ。
女優のユズの時はプロとして、全神経を集中させているから、自分の感情を隠すこともできる。
けれど、結月はただの女子高生だから、秘密が多いだけの普通の女子高生だから…
特に蓮の前では気なんか弛みっぱなしで、自分の感情に正直になってしまう。
好きって気持ちが、溢れてしまう。
「もう、やだよ」
そう呟きながら、私は空を見上げた。
「こんなに辛いなら、好きになんてなりたくなかった……」
けれどやっぱり、
「大好きなんだよ……」
見上げた空はいつも学校の屋上から見るのと、さほど変わりはないはずなのに、いつもよりもずっと、ずーっと遠くに感じられた。