次の日。
私は結月としていつものように、黒髪のウィッグをつけて、オレンジ色のダテ眼鏡をかけた。
けれどいつもとは違って、肩にかかる黒髪は結ばずにブラシで整え、ピンク色の花柄のワンピースに、白いヒールを履いて、できる限りのおしゃれをして、学校の正門へと向かった。
たった1日。
なんの用事かはわからないけれど、蓮と出かけるのだから、好きな人と出かけるのだから今日だけは、素敵な女の子になりたい。
「ゆづちゃんお待たせ」
背後から聞きなれた声がして、振り向いた私の目に映ったのは、細身のズボンで元々長い脚をさらに長く見せて、半袖のカッターシャツの袖から細いのに筋肉質な腕をのぞかせ、いつもは黒いはずの髪を茶色にして、黒縁眼鏡をかけた蓮がいた。
「れ、蓮……??」
わかってはいながらも、確認せずにはいられなかった。
いつもと雰囲気が違いすぎる。
なのに相変わらずカッコ良すぎるその姿に、私は見とれてしまった。
なんかいつもよりも蓮に色気がある。
隣にいるだけでドキドキする。
「俺だよ。変装してんの。てか、ゆづちゃんもいつもと違うよね」
そう言うと蓮は、
「かなり可愛い」
なんて私の耳元で色っぽく囁いた。
私は耳から赤くなるのを感じながら、
「て、ていうかさっきから"ゆづちゃん"ってなんなのよ」
と尋ねた。
「あぁ、念のためな。今日はお前はゆづちゃんで、俺は蓮くんだ。万が一、周りに気づかれても俺は俳優・鈴木蓮じゃないって言い張るためになる」
そう悪戯っぽく蓮は言った。
どんどん前を歩いて行く蓮についていきながら、ふと気になっていたことを尋ねた。
「ね、今日はどこ行くの?」
「あ、言ってなかったな。実はさ、遊園地行きたんだ」
「遊園地??」
その言葉に私は目を輝かせた。
「あぁ、小さい頃に一回、行ったっきりだったから久しぶりに行きたいなって思ったんだけど、一人で行くのもなんだし」
「行きたい!!私、行ったことないし」
そう私が言うと蓮は驚いた顔をしてから、
「なら、思い出に残るもんにしないとな」
と言って笑った。
私は、遊園地に行ったことは今まで一度もなかった。
小さい頃から平日は学校、休日は仕事という毎日の繰り返しだったから、遊園地に限らず基本的にお出かけというものをあまりしたことがない。
あえていえばずっと昔。
私がまだ小さかった頃は何回か夏に、家族とお祭りに出かけたことがあったけれど、それ以外は遊園地も、動物園も水族館にも行ったことがない。
初めての遊園地、楽しむぞーー!!!
そう思いながら蓮と一緒に電車を乗り継いで、やっとのことでたどり着いた遊園地は、たくさんの人で溢れかえっていた。
遊園地の中に入ると、たくさんの乗り物に順番待ちの列ができていた。
「こりゃ、どれも並ぶな。ゆづちゃんは乗ってみたいのとかある?」
「蓮くん、私ジェットコースター乗りたい!!」
照れながらそう言うと、
「じゃ、行こっか」
前を向いて歩き出した蓮に、私はついて行った。
ジェットコースターに向かう途中、蓮にくっついて歩いていたはずなのに、人にぶつかった拍子に見失ってしまった。
どこに行っちゃったんだろう。
蓮を探して歩いているとしばらくして、息を切らした蓮が私の元にやってきた。
「ごめん」
そう言ってから、私の目の前に右手を差し出した。
「ごめん、結月。またはぐれるといけないから」
そう言ったかと思うと突然、蓮は私の左手を握ってきた。
ねぇ、蓮。
あなたはただ、握っているだけかもしれないけど、私はどうしようもないくらいに、ドキドキしているんだよ。
ねぇ、私はこの気持ちどうすればいいのかな。
手をつないだ状態でしばらく歩き続けると、ようやくジェットコースターに乗るための、長蛇の列が見えてきた。
〔ジェットコースター150分待ち〕
「後にする?」
そう書かれた看板を見て聞いたら、
「後にしても同じだろ。せっかくだから乗ろう」
そう蓮は言った。
「ハハハハッ」
一枚の写真を眺めて笑い続けている蓮に、
「もう、笑わないでよ」
私は拗ねたようにそう言った。
「悪りぃ悪りぃ。けど………プッ。この顔まじウケる」
謝りながらも、なお蓮は笑い続けている。
蓮が手にしているのは、ある一枚の写真だ。
150分も並んで、やっとの事で乗れたジェットコースターの途中で、備え付けのカメラに撮られたその写真には、今にも落ちようとしているジェットコースターの上で、清々しいほどに笑顔の蓮と私の絶叫している顔が納められていて、蓮はその恥ずかしい顔を見て、もう30分近く笑い続けているのだ。
「昼飯、何か食いたいもんある?」
やっと笑うのをやめた蓮に突然言われて、いつの間にか12時を回っていたことに気づいた。
お店を探しに歩いて行く蓮に、引っ張られるようにしてついて行った。
ジェットコースターに乗っているときに一度離してしまった手も、今は再び繋がっている。
遊園地の中で、食事をできる場所はかなり限られてくる。
売店はいくつかあるけれど、12時を少し過ぎた今の時間帯は、お昼ご飯を食べようとする人がたくさんいて、どこのお店も並んでいた。
そんな中で、並んでいる人が割と少ないところがあった。
「ここでいっかな?」
蓮にそう聞かれて、
「うん」
と私は答えた。
私たちが並んだお店は、少ないとはいっても10組以上は並んでいた。
「いらっしゃいませー」
ようやく私たちの番になった時には、とっくに1時を過ぎていた。
若い女店員さんは、蓮を見て頬を赤く染めていた。
蓮は、確かに髪色も違えば眼鏡までかけていて、普段の雰囲気とかけ離れているけれど、やっぱりカッコいい。
それに今日の蓮の色気はすごくて、その色気に酔わされて、思わず見惚れてしまうほどだ。
「俺、焼きそばにするけどゆづちゃんは?」
その声にハッとして、メニューを見るとオールマイティーな品揃えだった。
焼きそばやお好み焼き、たこ焼きがあるかと思えば、ハンバーガーやポテトといったものもあり、さらにうどんやラーメンなんてものまであった。
私は迷った挙句、
「あっ!私これにする」
そう言った。
「ありがとうございました」
店員さんの明るい声とともに、私の手にはある食べ物がやってきた。
「蓮、払うよ」
「いいよ。てか、それだけで良かったの??」
「ありがとう。一度食べてみたかったんだよね、鯛焼き」
そう、鯛焼き。
「鯛焼き食べたことなかったのか?」
「うん」
私は今まで、鯛焼きというものを食べたことがなかった。
ユズに食事制限なんてものはなくて、アメリカにいた時にはとても大きなハンバーガーを食べたことだってあるし、焼きそばなどは昔お祭りの屋台で食べたりした。
けれどなぜか今まで、鯛焼きとは縁がなかったのだ。
「いただきまーす」
私は生まれて初めて鯛焼きを口にした。
「美味しいっ!!」
ホカホカの生地の中に甘い小豆が包まれていて、とても美味しい!!
「よかったな」
目を細めて笑った蓮に、私はドキリとした。
私は結月としていつものように、黒髪のウィッグをつけて、オレンジ色のダテ眼鏡をかけた。
けれどいつもとは違って、肩にかかる黒髪は結ばずにブラシで整え、ピンク色の花柄のワンピースに、白いヒールを履いて、できる限りのおしゃれをして、学校の正門へと向かった。
たった1日。
なんの用事かはわからないけれど、蓮と出かけるのだから、好きな人と出かけるのだから今日だけは、素敵な女の子になりたい。
「ゆづちゃんお待たせ」
背後から聞きなれた声がして、振り向いた私の目に映ったのは、細身のズボンで元々長い脚をさらに長く見せて、半袖のカッターシャツの袖から細いのに筋肉質な腕をのぞかせ、いつもは黒いはずの髪を茶色にして、黒縁眼鏡をかけた蓮がいた。
「れ、蓮……??」
わかってはいながらも、確認せずにはいられなかった。
いつもと雰囲気が違いすぎる。
なのに相変わらずカッコ良すぎるその姿に、私は見とれてしまった。
なんかいつもよりも蓮に色気がある。
隣にいるだけでドキドキする。
「俺だよ。変装してんの。てか、ゆづちゃんもいつもと違うよね」
そう言うと蓮は、
「かなり可愛い」
なんて私の耳元で色っぽく囁いた。
私は耳から赤くなるのを感じながら、
「て、ていうかさっきから"ゆづちゃん"ってなんなのよ」
と尋ねた。
「あぁ、念のためな。今日はお前はゆづちゃんで、俺は蓮くんだ。万が一、周りに気づかれても俺は俳優・鈴木蓮じゃないって言い張るためになる」
そう悪戯っぽく蓮は言った。
どんどん前を歩いて行く蓮についていきながら、ふと気になっていたことを尋ねた。
「ね、今日はどこ行くの?」
「あ、言ってなかったな。実はさ、遊園地行きたんだ」
「遊園地??」
その言葉に私は目を輝かせた。
「あぁ、小さい頃に一回、行ったっきりだったから久しぶりに行きたいなって思ったんだけど、一人で行くのもなんだし」
「行きたい!!私、行ったことないし」
そう私が言うと蓮は驚いた顔をしてから、
「なら、思い出に残るもんにしないとな」
と言って笑った。
私は、遊園地に行ったことは今まで一度もなかった。
小さい頃から平日は学校、休日は仕事という毎日の繰り返しだったから、遊園地に限らず基本的にお出かけというものをあまりしたことがない。
あえていえばずっと昔。
私がまだ小さかった頃は何回か夏に、家族とお祭りに出かけたことがあったけれど、それ以外は遊園地も、動物園も水族館にも行ったことがない。
初めての遊園地、楽しむぞーー!!!
そう思いながら蓮と一緒に電車を乗り継いで、やっとのことでたどり着いた遊園地は、たくさんの人で溢れかえっていた。
遊園地の中に入ると、たくさんの乗り物に順番待ちの列ができていた。
「こりゃ、どれも並ぶな。ゆづちゃんは乗ってみたいのとかある?」
「蓮くん、私ジェットコースター乗りたい!!」
照れながらそう言うと、
「じゃ、行こっか」
前を向いて歩き出した蓮に、私はついて行った。
ジェットコースターに向かう途中、蓮にくっついて歩いていたはずなのに、人にぶつかった拍子に見失ってしまった。
どこに行っちゃったんだろう。
蓮を探して歩いているとしばらくして、息を切らした蓮が私の元にやってきた。
「ごめん」
そう言ってから、私の目の前に右手を差し出した。
「ごめん、結月。またはぐれるといけないから」
そう言ったかと思うと突然、蓮は私の左手を握ってきた。
ねぇ、蓮。
あなたはただ、握っているだけかもしれないけど、私はどうしようもないくらいに、ドキドキしているんだよ。
ねぇ、私はこの気持ちどうすればいいのかな。
手をつないだ状態でしばらく歩き続けると、ようやくジェットコースターに乗るための、長蛇の列が見えてきた。
〔ジェットコースター150分待ち〕
「後にする?」
そう書かれた看板を見て聞いたら、
「後にしても同じだろ。せっかくだから乗ろう」
そう蓮は言った。
「ハハハハッ」
一枚の写真を眺めて笑い続けている蓮に、
「もう、笑わないでよ」
私は拗ねたようにそう言った。
「悪りぃ悪りぃ。けど………プッ。この顔まじウケる」
謝りながらも、なお蓮は笑い続けている。
蓮が手にしているのは、ある一枚の写真だ。
150分も並んで、やっとの事で乗れたジェットコースターの途中で、備え付けのカメラに撮られたその写真には、今にも落ちようとしているジェットコースターの上で、清々しいほどに笑顔の蓮と私の絶叫している顔が納められていて、蓮はその恥ずかしい顔を見て、もう30分近く笑い続けているのだ。
「昼飯、何か食いたいもんある?」
やっと笑うのをやめた蓮に突然言われて、いつの間にか12時を回っていたことに気づいた。
お店を探しに歩いて行く蓮に、引っ張られるようにしてついて行った。
ジェットコースターに乗っているときに一度離してしまった手も、今は再び繋がっている。
遊園地の中で、食事をできる場所はかなり限られてくる。
売店はいくつかあるけれど、12時を少し過ぎた今の時間帯は、お昼ご飯を食べようとする人がたくさんいて、どこのお店も並んでいた。
そんな中で、並んでいる人が割と少ないところがあった。
「ここでいっかな?」
蓮にそう聞かれて、
「うん」
と私は答えた。
私たちが並んだお店は、少ないとはいっても10組以上は並んでいた。
「いらっしゃいませー」
ようやく私たちの番になった時には、とっくに1時を過ぎていた。
若い女店員さんは、蓮を見て頬を赤く染めていた。
蓮は、確かに髪色も違えば眼鏡までかけていて、普段の雰囲気とかけ離れているけれど、やっぱりカッコいい。
それに今日の蓮の色気はすごくて、その色気に酔わされて、思わず見惚れてしまうほどだ。
「俺、焼きそばにするけどゆづちゃんは?」
その声にハッとして、メニューを見るとオールマイティーな品揃えだった。
焼きそばやお好み焼き、たこ焼きがあるかと思えば、ハンバーガーやポテトといったものもあり、さらにうどんやラーメンなんてものまであった。
私は迷った挙句、
「あっ!私これにする」
そう言った。
「ありがとうございました」
店員さんの明るい声とともに、私の手にはある食べ物がやってきた。
「蓮、払うよ」
「いいよ。てか、それだけで良かったの??」
「ありがとう。一度食べてみたかったんだよね、鯛焼き」
そう、鯛焼き。
「鯛焼き食べたことなかったのか?」
「うん」
私は今まで、鯛焼きというものを食べたことがなかった。
ユズに食事制限なんてものはなくて、アメリカにいた時にはとても大きなハンバーガーを食べたことだってあるし、焼きそばなどは昔お祭りの屋台で食べたりした。
けれどなぜか今まで、鯛焼きとは縁がなかったのだ。
「いただきまーす」
私は生まれて初めて鯛焼きを口にした。
「美味しいっ!!」
ホカホカの生地の中に甘い小豆が包まれていて、とても美味しい!!
「よかったな」
目を細めて笑った蓮に、私はドキリとした。