次の日、一晩中泣き腫らした顔は最悪だったけれど、私はなんとか学校へ行った。

蓮が葵ちゃんと仲良くなるのを見るのは辛いけど、でも私は蓮に救われたから、だから応援するよ。

自分の気持ちに蓋をして、蓮の恋を応援するよ……

教室に着くと、今日もやはり蓮の隣には葵ちゃんがいた。

私は一瞬、教室に入るのをためらったけれど、勇気を振り絞って、足を踏み入れた。

「蓮、葵ちゃんおはよう」

「おはようございます、結月先輩」

葵ちゃんはやっぱり可愛い。

蓮がこの子を好きなのもわかるよ。

完敗だよ。

私が席に着くと、蓮が私に近寄ってきた。

そして右手を私の額にあてて、

「お前、熱あんじゃん」

そう言ったかと思うと、私をひょいと抱き上げた。

それはいわゆるお姫様抱っこというやつで……

「えっ?ちょっと!??おろしてよ!!」

葵ちゃんだって見てるのに、こんなことしたら誤解されるよ??

そう思っていると、

「結月、保健室連れてくって先生に言っておいて」

とクラスの女の子に言って、蓮は歩き出した。

それから蓮は私を抱っこした状態で、人に会うたびに「きゃーっ!蓮様だわっ!」と叫ばれながら、長い廊下を歩き、保健室まで私を連れて行った。

「失礼します」

蓮が律儀にそう言って保健室の扉を開くと、中には誰もいなかった。

しばらくして蓮は、保健室の奥の方にあるベッドに私をおろすと、保健室の中をガサゴソと物色してから、水の入ったコップと薬を片手に戻ってきた。

「これ飲んで」

言われるがままに薬を飲んだところで、私は意識を手放した。

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私は目を覚ますと、右手に温かいぬくもりを感じた。

「えっ?」

どうして……??

どうして、あなたが……

そう思っていると、

「起きたか?」

私の右手を握り締めながら、蓮が優しくそう言った。

蓮は手を離したかと思うと次の瞬間、私の頭を優しく撫でてきた。

「もう、大丈夫か?」

そう聞かれて、私は保健室で寝ていたんだということを思い出した。

「大丈夫。ありがとうね」

「別に……」

蓮は頭をかいた。

それを見て、照れてるんだとわかることすらも喜びを感じる私は、重傷……。

「立てるか??」

そう言って蓮が差し出してくれた手に、自分の手を重ねてベッドから降りようとした時、

「キャッ」

私はバランスを崩して前に倒れてしまった。

床に顔を打つ!と思ったのに、いつまでたっても痛みはなくて、気付いた時には私は蓮の腕の中にいた。

蓮は私を抱きかかえて、

「結月、さっきも思ったけど軽すぎ。ちゃんと食べてる?」

そう言って、私をベットの上に座らせた。

「食べて……」

る、と言おうとして昨日のお昼以降、何も口にしていないことを思い出した。

口をつぐんだ私を見て蓮は、

「これ、食べれるか?」

そう言って、蓮がいつも持ってきているお弁当箱を開いた。

「え?いいよ」

私はそう言ったが、

グゥゥゥゥーー

お腹が鳴ってしまった。

は、恥ずかしい…

顔を真っ赤にして俯いていると、蓮は笑いながら、

「ほら、食えよ」

そう言って箸で卵焼きを持って、私の口に近づけた。

「口、開けろ」

「いや、自分で食べ……」

"自分で食べれる"そう言おうとして、開いた私の口の中に、卵焼きの甘い味が広がった。

私は昔から卵焼きが好きだ。

中でも甘い卵焼きは大好きだ。

でも自分ではうまく作れなくて、こんなに甘くて美味しい卵焼きを食べたのは、久しぶりだった。

「美味しい」

私がそう口にすると、

「そうか?」

と蓮は言って、再び卵焼きを箸で掴んだ。

「もう一個食うか?」

そう言って私の口に近づけて、パクッと口を開いた私の目の前で、蓮は自分で食べた。

「残念でした」

意地悪く、蓮はそう言って笑った。

そんな意地悪な表情にすら、ドキッとしてしまう自分自身が情けない。

自分の気持ちに蓋をしたはずなのに、蓮の気持ちを応援するって決めたはずなのに、どうして?

どうして私は、蓮を思うだけで胸が痛むの?

蓮のお弁当を二人で食べて、しばらくすると蓮は、

「よかった」

と小さく呟き、

「結月が無事でよかった」

そう言って、私をぎゅっと抱きしめた。

「れ、ん……??」

「お前、11時間も寝てたんだよ」

私を抱きしめていた腕を緩めた蓮にそう言われて、窓の外に目をやると、外の世界はもう暗くなっている。

「さっき終礼が終わって、クラスの子達が俺たちの鞄を届けてくれたんだ」

そう言われてふと気付いた。

けどまさか、まさかそんなはず……

「もしかして蓮、1日中付いていてくれたの?」

「あー、まぁ」

「授業は??」

「俺、頭良いし」

そう言って笑った蓮に、

「ありがとう」

私は心からお礼を言った。

お礼を言った私に、

「な、明日暇か?」

いきなりそんなことを聞いてきた。

明日は学校もお休みだし、ドラマの撮影も次のスペシャルゲストとして登場する、俳優さんの予定がつくまではしばらくはないらしい。

他のお仕事も確か……ない。

つまり、最近忙しかった私にとっては久しぶりのオフの日だ。

何も予定入れてないはず。

「暇だけど?」

「なら明日、俺に付き合ってよ」

私の目を見ていう蓮に、ドキッとした。

「えっ??」

「今日は俺が付き合ったから、今度は結月が俺に付き合って」

「わかった」

「じゃあ明日、朝8時に学校の正門の前に来て」

私の目を見てそう言った蓮は、なぜか満足そうな顔をしていた。