あれから毎日のように、葵ちゃんは蓮を訪ねて私たちのクラスにやってくるようになった。

そしてお昼休みも三人で屋上に行くようになった。

葵ちゃんは蓮と日に日に仲良くなっていった。

それに対して私は、蓮を好きだと意識してから上手く話せなくなり、蓮と気まずくなっていった。

そんなある日のことだった。

学校で蓮と思うように話せなくて落ち込んでいたけれど、気持ちを切り替えてユズとしてドラマの撮影に挑んだ。

その日の帰り、

「ユズさん、お話ししたいことがあるんですけど今日、お時間もらえませんか?」

そう、真剣な眼差しで蓮に言われた。

「いいよ」

私がそう答えると、蓮はホッとした顔をして、

「こっちに来てください」

と言って私の前を歩いて行った。

しばらくして私たちは小さな部屋にたどり着いた。

誰もいないのを確かめてから、

「あの…」

と、蓮は話し出した。

「僕、実は昔に一度だけユズさんにお会いしたことがあるんです」

蓮はそこでまた息を大きく吸って、続けた。

「僕は10年ほど前に、俳優になれと言われて親に無理矢理、撮影現場に連れてこられたことがあったんです。でも嫌で、逃げ回っていた時にスタジオの一室で、一人で声を押し殺して泣いてる女の子を見つけて、声をかけたんです。声を押し殺して泣いてるその子を見ているのが苦しかったから"悲しいときは、泣いていいんだよ"そう言ったんです。そうしたらその子はやっと声を出して泣いて、泣き止んだその子に泣いていた理由を聞いたら、悔しくて泣いたんだって。演技が上手くできなくて、大人に叱られても、悲しくてじゃなく悔しくて泣いたんだって。一旦泣き止んだのに"立派な女優になりたいのに、誰も応援してくれない"と言ってまた泣き出したその子に、俺は約束したんです。なら…」

「"僕が応援するよ!!"」

私は蓮を遮って言った。

私が言うと、

「覚えていてくださったんですね」

と、涙で瞳を滲ませながら蓮は再び話し出した。

「僕はあの時からずっと、あなたのことが好きだったんです」

ーーー好きだった。

それはつまり、どういうこと??

その言葉が意味するのはいったい、なに?

「あなたにまた会いたくて、追いつきたくて俳優にもなったんです。あなたのおかげで、今の僕がいるんです。本当にありがとうございました。けど僕、最近おかしいんです」

「おかしい?」

「はい。ずっとあなたのことが好きだったはずなのに、他の子にドキドキしたりする自分がいるんです」

私はピクリと、肩を上げた。

そんな私に気づかない様子の蓮はさらに続けた。

「その子を見てると飽きなくて、一緒にいて楽しくて安心できて、どんなものからも守ってあげたいと思う。それで…」

そこで言葉を止めた蓮に、

「それで…??」

私は尋ねた。

「それで僕、やっとわかったんです。気づいたんです。僕は、その子のことが好きなんだって。あなたへの想いは恋ではなくて、憧れだったんだって」

あぁ、やっぱり好き"だった"。

「って、こんなこと言われても困りますよね」

そう言って苦笑いをする蓮に、

「そんなことないよ」

と私は首を横に振った。

「僕、自分の今までの気持ちをユズさんに聞いてもらわないと、前に進めない気がして。いきなりすみませんでした。でも、聞いてもらえてよかったです。嬉しかったです。あの時のことをユズさんが覚えていてくれて」

蓮のその言葉に今だ、と思った。

もう、今しかない。

私の気持ちを伝えるなら、今しかない。

そう思った。

「蓮くんのあの言葉に、私はとても助けられたよ」

そう言った私の目を、蓮が見つめてきた。

「蓮くんが"応援する"ってあの時、言ってくれたから私は頑張ることができた。私の方こそ、ありがとうなんだよ」

ありがとう。

本当にありがとう。

「そんな、僕は別に……」

蓮はそう言って、照れ臭そうに頭をかいた。

「僕、これからもユズさんのこと応援しますね。ずっとファンですから」

「ありがとう」

私はなるべく明るい声でそう言った。

自分の気持ちがバレないように、偽物の笑顔を張りつけて。

私は家に帰ってから、思いっきり泣いた。

こんなに泣いたのは幼い頃、蓮の前で泣いて以来だ。

「私も、好きなのに……」

蓮のことが、好きなのに。

もう一生、会えないと思っていた初恋の人が蓮だと知って、今の蓮にも私は惹かれているんだと、恋をしているんだとやっと気づけたのに。

なんで…

どうして…

そう叫びたい。

けれど、叫んだところでなにも変わらない。

気づいた時にはもう遅かったんだ。

私はその日、声が枯れるんじゃないかと思うほど、一晩中泣き続けた。

"その子を見てると飽きなくて、一緒にいて楽しくて、安心できて。どんなものからも守ってあげたいと思う"

蓮は、そう言った。

そんなの、相手はあの子しかいない。

蓮は名前は言いはしなかったけれど、あの子以外に誰がいる??

ロングでカールがかかった綺麗な黒髪に、小さな顔に大きな黒目。

話し方もふんわりしていて癒し系。

あんなにも可愛い子に、毎日毎日「蓮先輩」なんて慕われたら、蓮も好きになっちゃうよね。

守ってあげたくなっちゃうよね。

蓮は、葵ちゃんが好きなんだよねーーーー