次の日、私はいつものように学校へ行った。
そして、教室に向かった。
けれど、教室の周りには昨日よりも人がたくさんいて、なかなか入ることができなかった。
人が多いのもそうだけれど、周りにいる人たちの様子も、昨日とは違う。
まず、昨日は"蓮様"なんて言って騒いでいた女の子たちは、なぜか意気消沈していて、昨日は何の反応も見せなかった、男の子たちはなぜか気合が入っている。
ーーーどうしたんだろう?
何かあったのかな??
そんな疑問は、教室に入るとすぐに解消された。
「あの子、超可愛くね?」
「やばい、マジ惚れる」
何でコソコソと話す男の子たち。
「誰よ、あの子!」
「悔しいけど、美男美女!!」
と唇を噛みながら言う女の子たち。
そんな彼らの間を通って、やっとの思いで教室に入った私の目に飛び込んできたのは、窓際のある席に座っている男の子とその机の横にちょこんと座っている女の子だった。
その二人からは、独特のオーラが醸し出されている。
二人は仲良く笑っていた。
「ふふふ、蓮先輩って面白いんですね」
この声には、聞き覚えがある。
たぶん、あの子だ。
「そうかな?」
そう言って、女の子に微笑みかけた蓮と私は一瞬、視線が絡まった。
「結月、おはよう」
「おはよう、蓮」
私たちがいつものように挨拶を交わすと、ロングでカールした黒髪が可愛らしい彼女が、「え?」と訝しげな表情を私に向けてきた。
それに気づいた蓮が、
「僕の友達の、結月だよ」
紹介された私は、女の子に会釈した。
そして蓮は、女の子を私に紹介した。
「結月、この子は…」
「中村葵です。よろしくお願いします、結月先輩」
葵ちゃんは、蓮の言葉に重ねて言った。
その口調はやはりゆったりはしていたけれども、とても鋭いものを感じた。
あの後、葵ちゃんはしばらくして教室に帰っていった。
そして朝礼が始まる前、
「中村さん、ドラマで共演することになって、昨日知り合ったんだけどさ、同じ学校だって知って、わざわざ会いにきてくれたんだ」
と、蓮は葵ちゃんの話をし始めた。
それを聞いていると、私はなぜだかイライラした。
蓮が葵ちゃんを褒めるたびに、胸が痛む。
なんでだろう。
「彼女、このドラマが初めてらしくてさ"わからないことだらけだけど、足引っ張りたくないので質問とかしていいですか?"なんて言ったんだ。健気だと思わない?」
そう微笑んだ蓮に、
「へぇー、そうなんだ」
私は素っ気なく返した。
胸の痛みの原因がわからないまま時間が過ぎ、いつの間にかお昼休みになった。
私は屋上に行くため、席を立った。
そして蓮もついてきた。
しかし教室の扉を開けると、
「蓮先輩ーー!」
そう言って、蓮の腕を掴む葵ちゃんがいた。
「蓮先輩、一緒に食べませんか?」
「あー、ごめんね。屋上で結月と食べるから」
そう蓮が言うと、葵ちゃんはじっと私を見つめてきた。
「結月先輩、私も一緒じゃダメですか??」
そう聞かれた私は、
「いいよ。一緒に食べよっか」
ダメなんて言えなかった。
屋上に着くと、いつものベンチに蓮が座った。
そして、その隣に葵ちゃんが座った。
ベンチは二人用で、私は床に座るしかなかった。
それを見て蓮が、
「中村さん、そこは……」
「私はいいよ。気にしないで」
私は蓮に言った。
こうなることも考えずに、一緒に食べようと言ったのは私だから。
それなのに、
「結月」
蓮は立ち上がって、優しく私を呼んで腕を掴み、私をベンチに座らせた。
「お前は座っとけ」
私の耳元で囁いた。
そして、
「教室に飲み物忘れたから、取ってくるね」
と、得意の"蓮様"口調で葵ちゃんに言ってから、屋上を出ていった。
熱い。
ものすごく熱い。
蓮に掴まれた右手首が、囁かれた左耳が熱い。
私は一体どうしてしまったのだろう。
おかしい。
おかしすぎる。
蓮の一つ一つの行動や言葉に、一喜一憂しているなんて。
こんなの、まるで………
「結月先輩は蓮先輩のこと、どう思っているんですか?」
私がボーッとしていると、隣の葵ちゃんに尋ねられた。
「どうって……??」
「好き、なんですか?私は好きですよ、蓮先輩のこと」
葵ちゃんの思いがストレートに伝わってくる。
「私は……」
私は、どうなんだろう。
蓮のことが好きか嫌いかと聞かれたら、迷いなく"好き"と私は答える。
蓮はなんていったって、私の初恋の人だ。
あの優しさ、一緒にいて安心できるところ、大好きだ。
けれどそれは人としてであって、今も葵ちゃんと同じように、恋をしているのかと問われたら、どうなんだろう。
「どうなんだろう」
そう口にした私に、葵ちゃんは目を丸くした。
「"どうなんだろう"って。好き、ですよね?」
今度は断定的に言われた。
それに対して私は反発しようとした。
「誰が、あんな……」
そう言いかけて、私は止まる。
あんな……
その後に、何が続く??
蓮は、背が高くて手足は長い。
かなりスタイルが良くて、顔が小さくて黒目が大きい。
優しくて強くて、心があったかい。
一緒にいると安心できて、勇気もくれる。
とてもとても、素敵な人なんだ。
ユズの前ではなんでも完璧にこなす紳士になるし、クラスのみんなの前では"蓮様"と言う呼び名にふさわしい、女の子たちの憧れの王子様みたいになる。
けれど本当は、完璧な紳士でも憧れの王子様でもなく、弱いところだってある普通の男の子。
それを隠そうと必死にもがいている姿も、私はきっと……
本当は分かっている。
今朝、感じた胸の痛みの正体も、蓮に触れられたところが熱い理由も、全部わかっている。
ただ私は、それを認めるのが怖いんだ。
認めたら最後。
もう今までのような、気の許せる友達には戻れなくなってしまうような気がして。
けれどそれでもなお、この気持ちを言葉で表現しろと言うならば、私はーーーーーー
「私も蓮のことが…」
"好き"そう答えようとした私に、
「ま、見てればわかりますけど」
葵ちゃんは小さく呟いてから、大きく息を吸った。
そして、
「これから恋のライバルとして、よろしくお願いしますね、結月先輩」
そう言って微笑んだ。
そして、教室に向かった。
けれど、教室の周りには昨日よりも人がたくさんいて、なかなか入ることができなかった。
人が多いのもそうだけれど、周りにいる人たちの様子も、昨日とは違う。
まず、昨日は"蓮様"なんて言って騒いでいた女の子たちは、なぜか意気消沈していて、昨日は何の反応も見せなかった、男の子たちはなぜか気合が入っている。
ーーーどうしたんだろう?
何かあったのかな??
そんな疑問は、教室に入るとすぐに解消された。
「あの子、超可愛くね?」
「やばい、マジ惚れる」
何でコソコソと話す男の子たち。
「誰よ、あの子!」
「悔しいけど、美男美女!!」
と唇を噛みながら言う女の子たち。
そんな彼らの間を通って、やっとの思いで教室に入った私の目に飛び込んできたのは、窓際のある席に座っている男の子とその机の横にちょこんと座っている女の子だった。
その二人からは、独特のオーラが醸し出されている。
二人は仲良く笑っていた。
「ふふふ、蓮先輩って面白いんですね」
この声には、聞き覚えがある。
たぶん、あの子だ。
「そうかな?」
そう言って、女の子に微笑みかけた蓮と私は一瞬、視線が絡まった。
「結月、おはよう」
「おはよう、蓮」
私たちがいつものように挨拶を交わすと、ロングでカールした黒髪が可愛らしい彼女が、「え?」と訝しげな表情を私に向けてきた。
それに気づいた蓮が、
「僕の友達の、結月だよ」
紹介された私は、女の子に会釈した。
そして蓮は、女の子を私に紹介した。
「結月、この子は…」
「中村葵です。よろしくお願いします、結月先輩」
葵ちゃんは、蓮の言葉に重ねて言った。
その口調はやはりゆったりはしていたけれども、とても鋭いものを感じた。
あの後、葵ちゃんはしばらくして教室に帰っていった。
そして朝礼が始まる前、
「中村さん、ドラマで共演することになって、昨日知り合ったんだけどさ、同じ学校だって知って、わざわざ会いにきてくれたんだ」
と、蓮は葵ちゃんの話をし始めた。
それを聞いていると、私はなぜだかイライラした。
蓮が葵ちゃんを褒めるたびに、胸が痛む。
なんでだろう。
「彼女、このドラマが初めてらしくてさ"わからないことだらけだけど、足引っ張りたくないので質問とかしていいですか?"なんて言ったんだ。健気だと思わない?」
そう微笑んだ蓮に、
「へぇー、そうなんだ」
私は素っ気なく返した。
胸の痛みの原因がわからないまま時間が過ぎ、いつの間にかお昼休みになった。
私は屋上に行くため、席を立った。
そして蓮もついてきた。
しかし教室の扉を開けると、
「蓮先輩ーー!」
そう言って、蓮の腕を掴む葵ちゃんがいた。
「蓮先輩、一緒に食べませんか?」
「あー、ごめんね。屋上で結月と食べるから」
そう蓮が言うと、葵ちゃんはじっと私を見つめてきた。
「結月先輩、私も一緒じゃダメですか??」
そう聞かれた私は、
「いいよ。一緒に食べよっか」
ダメなんて言えなかった。
屋上に着くと、いつものベンチに蓮が座った。
そして、その隣に葵ちゃんが座った。
ベンチは二人用で、私は床に座るしかなかった。
それを見て蓮が、
「中村さん、そこは……」
「私はいいよ。気にしないで」
私は蓮に言った。
こうなることも考えずに、一緒に食べようと言ったのは私だから。
それなのに、
「結月」
蓮は立ち上がって、優しく私を呼んで腕を掴み、私をベンチに座らせた。
「お前は座っとけ」
私の耳元で囁いた。
そして、
「教室に飲み物忘れたから、取ってくるね」
と、得意の"蓮様"口調で葵ちゃんに言ってから、屋上を出ていった。
熱い。
ものすごく熱い。
蓮に掴まれた右手首が、囁かれた左耳が熱い。
私は一体どうしてしまったのだろう。
おかしい。
おかしすぎる。
蓮の一つ一つの行動や言葉に、一喜一憂しているなんて。
こんなの、まるで………
「結月先輩は蓮先輩のこと、どう思っているんですか?」
私がボーッとしていると、隣の葵ちゃんに尋ねられた。
「どうって……??」
「好き、なんですか?私は好きですよ、蓮先輩のこと」
葵ちゃんの思いがストレートに伝わってくる。
「私は……」
私は、どうなんだろう。
蓮のことが好きか嫌いかと聞かれたら、迷いなく"好き"と私は答える。
蓮はなんていったって、私の初恋の人だ。
あの優しさ、一緒にいて安心できるところ、大好きだ。
けれどそれは人としてであって、今も葵ちゃんと同じように、恋をしているのかと問われたら、どうなんだろう。
「どうなんだろう」
そう口にした私に、葵ちゃんは目を丸くした。
「"どうなんだろう"って。好き、ですよね?」
今度は断定的に言われた。
それに対して私は反発しようとした。
「誰が、あんな……」
そう言いかけて、私は止まる。
あんな……
その後に、何が続く??
蓮は、背が高くて手足は長い。
かなりスタイルが良くて、顔が小さくて黒目が大きい。
優しくて強くて、心があったかい。
一緒にいると安心できて、勇気もくれる。
とてもとても、素敵な人なんだ。
ユズの前ではなんでも完璧にこなす紳士になるし、クラスのみんなの前では"蓮様"と言う呼び名にふさわしい、女の子たちの憧れの王子様みたいになる。
けれど本当は、完璧な紳士でも憧れの王子様でもなく、弱いところだってある普通の男の子。
それを隠そうと必死にもがいている姿も、私はきっと……
本当は分かっている。
今朝、感じた胸の痛みの正体も、蓮に触れられたところが熱い理由も、全部わかっている。
ただ私は、それを認めるのが怖いんだ。
認めたら最後。
もう今までのような、気の許せる友達には戻れなくなってしまうような気がして。
けれどそれでもなお、この気持ちを言葉で表現しろと言うならば、私はーーーーーー
「私も蓮のことが…」
"好き"そう答えようとした私に、
「ま、見てればわかりますけど」
葵ちゃんは小さく呟いてから、大きく息を吸った。
そして、
「これから恋のライバルとして、よろしくお願いしますね、結月先輩」
そう言って微笑んだ。