"アメリカ帰りの大女優・ユズ主演のドラマ、初回視聴率30%越え!!"

あっという間に月日は過ぎ、いつの間にか7月になっていた。

そして昨日、ついにドラマの第1話が放送されて、視聴率30%越えというなんとも素晴らしい数字をたたき出した。

とてもとても嬉しい。

感謝もする。

けど、

「あ、蓮様が!蓮様がこっち向いた」

「かっこいいわー!!」

「生の蓮様!!ドラマよりイケメン!!」

そう言って私の隣の席の蓮を見て騒ぐ女の子の数が、昨日までと比べて倍以上になった。

蓮がモテることに対して何かいう資格なんて、私にはない。

でも、でもね??

「ちょっとあんた、なんで蓮様の隣の席に座ってんのよ」

「ずるいわ」

「どきなさいよ」

そんなこと言われても、困るんですけど!!

そんな私達を見て女の子たちを宥めようと、

「その子は僕の友達だよ?」

なんて言った蓮。

しかし、

「友達!?ずるい!!」

「なんでこの子が蓮様の友達になれるのよ」

などと言い出して、女の子たちからの睨みはより一層鋭いものになった。

「友達だからって調子に乗らないでよ!蓮様に釣り合うのはね、ユズ様みたいな美少女なのよ!!」

リーダー格の女の子がそう言った。

ユズ様って……。

しかも、私のことだし。

ていうか、調子に乗る意味がわからない……。

そう思って苦笑いする私。

切なげに笑う蓮。

私たちの周りにはしばらくの間、気まずい空気が流れた。

あの日、初恋の話をしたあの日以来、蓮は私の前でユズの話をしなくなった。

なんだか寂しい。

いや、前みたいに褒めちぎられても恥ずかしいだけだからいいんだけど、でもやっぱり今までずっと毎日のように褒めてくれて、嬉しかったんだ。

だから今は寂しくて、物足りない感じがしてしまう。

けれど変わったのはそれだけで、相変わらずお昼休みになると屋上に行って、二人一緒にお弁当を食べるのは、私たちの間の暗黙の了解となっている。

そんな毎日がこれからも続いていく。

そう思っていた時だった。

蓮のファンから散々に言われながらも無事に学校から帰り、ウィッグと眼鏡を外しドラマの撮影に行くと、

「新人の中村葵(なかむらあおい)です。よろしくお願いします」

そう言ってゆるいウェーブのかかった、長い綺麗な黒髪を揺らしながら、タレ目で可愛らしい女の子が私に頭を下げた。

「葵ちゃんは、第3話から湊の幼なじみ、小林莉子(こばやしりこ)役として出演するんだ。ユズちゃん、仲良くしてあげてな」

そう言った監督に「はい」と答えて、

「葵ちゃん、よろしくね」

と私が言うと、葵ちゃんは私に屈託のない笑顔を見せた。

ドラマの流れはこうだ。

大人しくて控えめな性格で、比較的目立たない女の子凛が、高校二年生になって学年中で人気No.1の男の子、湊と出会い周りとは一線を引く湊の心を溶かし、仲良くなるところまでが昨日放送された第1話。

そして凛が、クラスの女の子たちが湊と仲良くしているのを見て"嫌だ"と思い、自分は湊を好きなんだと自覚するのが第2話。

で第3話では、湊が近くにある女子高生に通う美少女と毎日一緒に登校している、と学校で噂になってある日の朝、凛が美少女と登校する湊を見かけて噂は本当だったんだと思ったら、湊にその子を"幼なじみ"だと紹介される。

けれど"湊のことが好きだ"とその女の子に宣言された凛が自分は無理だ、湊の彼女にはなれない。

そう諦めようとする切ない回だ。

その美少女で湊の幼なじみの女の子を演じるのが、葵ちゃんだ。

それからしばらくの間、私は葵ちゃんと他愛のない話を楽しんでいた。

葵ちゃんはとにかく可愛い。

小さな顔に、タレ目で大きな目。

少し低めの身長で見た目も可愛いのだけれど、それだけではなく、話し方はふんわりし雰囲気も柔らかい。

癒し系という言葉がこの子、以上に似合う人はいないんじゃないかと思うほどで、とにかく可愛い。

話をしていてわかったこと。

それは、

「じゃあ、葵ちゃんは高校一年生なんだ」

葵ちゃんが私の一つ下だということ。

「はい、そうです。ユズさんは?」

「それはトップシークレットだよ」

なんて言って笑いあっていたところに「蓮くん入りまーす」と声が聞こえたかと思うと、

「おはようございます、ユズさん」

蓮が私のすぐ後ろに来てそう言った。

蓮のユズに対する思いが、単なる憧れではなく"好き"だと知って、私の初恋の人が蓮だったと知ってから、私は蓮にどう対応すればいいのかと戸惑っていた。

結月であるときは、ユズとは全く別人のふりをしているけど、ユズの時は蓮があの時の優しい男の子だって知ってるよって言いたいけれど実際、私自身が気づいたわけではないし。

話を聞かなかったら、蓮だったなんてこと一生わからなかったかもしれない。

そう考えると言えなくて。

でも会うと言いたくなってしまう。

そんな自分の感情に戸惑っていた。

けれど、蓮のユズである私に対する態度は変わっていないのに、一人意識するのも嫌で。

「おはよう、蓮くん」

とびっきりの笑顔でそう言った。

何も知らない、気づいていないふりをして。

そんな私に対して蓮が微笑んだ。

その時、

「蓮さん!!初めまして!!私、新人の中村葵っていいます。湊の幼なじみの莉子役なんです。これからどうぞよろしくお願いします。私、蓮さんにすっごい憧れているんです。あの……握手して下さい!!」

とても早口だった。

そして右手を遠慮がちに出して俯いた。

「あ、ありがとうね」

蓮もあたふたしている。

あたふたしながらも、蓮は葵ちゃんの右手を優しく握った。

葵ちゃんの頬は瞬時に真っ赤に染まった。

それからしばらくして、蓮が監督に呼ばれて離れていくと、

「わーー!!手、一生洗えなくなっちゃいました!」

と葵ちゃんは私に言って、笑った。