退屈な数学の時間、冬のやわらかな午後の陽射しがあたしを夢の世界に誘った。


 夢の中のあたしは、小学校に入るか入らないかくらいの年の頃になっていた。

 周りには見知った顔の大人たちと従兄弟たち。

 その人たちに囲まれて、あたしはお兄ちゃんにしがみつき、小さくとも頼もしい背中の後ろで震えていた。

 従兄弟の中で一番年若く極度の人見知りだったあたしには、年上の従兄弟たちが怖くて怖くて堪らなかった。

 同年代でも一、二位を争うほど小さかったあたしにとって、年上の従兄弟たちに見下ろされるだけで威圧感があったから。

 頭上に降ってくる、声変わりの途中の太くて低い声も。

 低く地を這うような、地獄の閻魔様の怒鳴り声に聞こえたのだ。

 背中で怯えるあたしをお兄ちゃんは優しく抱き締めて、呪文のように言い続けていた。


 大丈夫、怖いものなんて何もないよ。

 守ってあげるから、と。


 だいすきなお兄ちゃんの腕の中で、あたしは何とも言えない安心感を得ていた。

 絶対的に信頼できるお兄ちゃんは、何者にも勝る存在だった。

 そして心地よい腕の中で、あたしはお兄ちゃん以上にすきになれる人はいないのだと、幼心に思ったのだ。


 今もその気持ちは変わらない。

 これが幼なじみなら、きっとそれは恋なんだと一言で片付いたはず。

 でも、あたしたちは兄妹だから。

 戸籍を確かめるまでもなく、明らかに血の繋がった兄妹だ。

 だから、この気持ちを恋と呼んではいけないことを、あたしは知っている。

 これはそう、きっと家族愛なのだ。


 血が繋がった兄妹。

 ただ、それだけ。

 あたしがお兄ちゃんをだいすきなだけ。

 ただ、それだけ。


 たったそれだけのことが、どうしていけないことなの?