クラス委員会議の最初から最後まで、受験を目前にしているはずの榊先輩は出席していた。

 2学期の中間試験が終わると、3年生は委員会に出なくてもいいことになっている。

 進学校としては学業に専念してほしいが行事や学校生活にも参加してほしい、という相反するものを折衷した上での策なのだろう。

 そのせいで3年の先輩たちはほとんど出席していないなか、榊先輩だけは出席していた。

 委員会の間中、委員長をサポートしつつ黒板に揃った文字を書いていく指の長い手とセーターを着用した背中を見て、そんなに受験は余裕なのかと甚だ疑問だった。

 大変頭がいいという噂は聞いていたが、年の瀬が迫りつつある今日、センター試験までそんなに日がないはずだ。

 しかしクラス委員3年目の先輩がいると、委員長も僕達も大変助かることは事実だ。


「木崎、お昼はありがと」


 委員会が終わってすぐ、手に付いたチョークの粉を払いつつ先輩が話し掛けてきた。


「いえ。妹さん気分を損ねられたようですが、大丈夫ですか?」


 配られたプリントを片付ける手を止めて顔と水を向ける。


「あぁ……」


 先輩は、やっぱり見られてるよな、と苦笑しながら僕の前の席に腰を下ろした。

 銀縁眼鏡の奥に宿る光は、困ったという言葉とは裏腹にやわらかい。


「今日は早く帰れるって言ってあったからさ、委員会が急遽あるって言ったら拗ねちゃったんだよな」


 うーん困った、と言いながらも、本当はそんなに困ってはいないのだろう。

 困り果てた顔ではなく、声音には優しさが混ぜ込まれている。

 仲が良いんだな、とその態度からわかるくらいだ。


「何か約束でもされていたんですか?」

「うんにゃ、特には。我が妹ながら、未だにわからないところがあるんだよな。木崎はわかる?」


 右肘を机について広げた掌に顎を乗せるという、一見だらしなく見える格好も、先輩がやると不思議とそのような印象はなかった。


「いえ、兄しかいないので……お力になれず申し訳ありません」