至近距離から覗く、やけに色気の孕んだ双眸。

何か言葉にしようと奴が吐息を洩らす度に、ぞくりと痺れが背中を走った。




ちょっと待て、落ち着けあたし。

それなりに恋愛の経験は積んできたんだから、こんなキョリどうってことないじゃない。



「―――何のつもり?」




努めて怒気を帯びた声音でそう告げれば、僅かに目を見張った男が視界に映り込む。


澄んだビー玉のような瞳に映るあたしは、日頃と何ら変わりのない強気な自分だったから安堵した。






「…なにって、キス?」

「ふざけないで」

「おっと、こえーこえー」


拘束されていない手のひらに力を込めて睨みつけると、途端に口許を緩めた奴は呆気なくあたしを解放した。





その澄ました顔、ほんとムカつく。

そのまま椅子まで戻るのも癪だから、最後まで繋がれていた指先を思い切り抓ってやった。





「って!なんだよ、冗談だろー」

「アンタがやると冗談に見えないから厄介なのよ」



本当、厄介で仕方がない。


暴れ回る心臓に知らない振りをしてこんな態度をとる度に、寿命が縮みそうになる。