―――カランコローン―――
店のドアを開けた時に聞こえる音
こんな時間にここに訪れるのは彼女しかいない
「こんばんわー
あれっ?輝くん今日もひとりなの?」
「こんばんわ翔子さん
今日も1人で店番していたよ(笑)
前買った本はどうだった?」
「そう!!それがねあの本…」
『おもしろかった』とか『感動した』とかそんな簡単な感想はいわず、細かく本の内容を説明して、おまけに自分の考察まで言ってくれる
そのため感想を語る時間は結構ながい
最初は忙しい彼女の時間を奪ってしまっているようで悪い気もしたが、今となっては彼女と少しでも多く言葉を交わしたくてつい感想を聞いてしまっている
「輝くんはあの本どうおもったの?」
「僕は3回ぐらいよんだんだけど、中盤の展開が早すぎてついていくのが大変だったな…」
「わあ〜!それ私もおもったの!
もうちょっとなんていうか…説明が足りない感じがしちゃって中盤は物足りないかんじだったわ」
「中盤さえ良ければな…
僕すごく好みの内容だったんだけどな」
「クライマックスがほんとに好きだった!
全体的に展開の早い作品だったけどクライマックスになると急に詳しくなってさ!
しかも使ってる言葉とか比喩とかがすっごく
物語のシチュエーションとマッチしていて…」
もちろん僕は店にある本全て読破済みなので、彼女はいつも僕にも感想を聞いてくる
この時間は僕にしか体験できない時間だ
時間が時間なのであまり長く話はできないのだがほんの少しの間のこの時が僕は好きだ
「そういえば…
翔子さんが探してた本っぽいのがあったんだけど」
「えっ?!ほんとに??!」
大好きなお菓子を与えられる子供のような目で彼女は僕をみている
「これじゃない?
中に書いてあったフレーズが前いっていた好きな言葉と一緒だったからさこれじゃないかなーっておもって」
「そうそう!これ!!
私この本ほんとにすきなの!ありがとう
よくおぼえててくれたね」
「だってこの前さがしているっていってたじゃないか(笑)」
「この前って…
結構半年前ぐらいにこの本のこといってたきがするんだけど?」
そういえばそうだったかもしれない
つい最近のように感じていたが、考えてみるとまだ桜が咲いている季節だった
「そっか…つい最近だとおもってたけどこんな前のことだったんだな…」
「わたし自分でいっといてわすれかけていた(笑)」
「翔子さんの話なら覚えてますよ僕は。
翔子さんとこうやってお話することが僕にとっての楽しみなので」
「えっ?」
しまった…
これでは好きといっているようなものではないか!
「私も輝くんと喋ってるの楽しいよ
なんでも答えてくれるし、話もちゃんときいてくれるし…」
ほほえみながら彼女はいった
もしかしたら気を使わせてしまったのかもしれない
下を向いて翔子さんが黙ってしまった
「……この本どうされますか?」
「あっ…えっと…もちろん買います!
いくらですか?」
「500円です」
「あっ…ちょっとまっててね…」
あんなこといったからか変な空気が2人の間を流れている
いつもなら本を包装しながら翔子さんと話しているのだが、今日にいたっては一言もしゃべらない
「はい。ちょうど500円です。
今日もありがとうございました。」
「いえいえ…
また来る時に声かけますね」
「……あの!翔子さん!」
「はい?なんでしょう?」
「ここに来る時僕に声掛けなくてもいいですよ」
「えっ?
もしかして迷惑でした…?」
ああ僕は最低だ。今日2回も翔子さんを困らしてしまったんだから
「いやっ全然迷惑とかじゃないんです
逆に翔子さんが迷惑してるんじゃないのかとおもいまして…」
彼女がわざわざ僕に言いに来る際に、教室まできてくれる
本当はやめてほしくない
だが、学校の華である彼女が
ただのモブである僕といることによって
周りから変な誤解をまねかれているのは事実である