だいぶ落ち着いた脚でコンビニを出ると、ひんやりとした風がゆるくウェーブした遅れ毛を散らした。
軽く撫で付けるようにして耳にかけながら、お酒のせいではなく、コーヒーのせいでもなく、高くなっている体温を感じていた。

「廣瀬さんはどうしてうちの会社に?」

廣瀬さんは卒業後マルフジ食品に就職して、陸上競技部で活動していたそうだ。
フルマラソンでオリンピックを目指したらしい。
それがかんたんじゃないことはわかるけど、そんな大きな会社に就職したのに、やめちゃうなんてもったいないと思う。

「所属している陸上部が廃部になったんです」

私は相当歪んだ表情をしていたのだろう。
安心させるように微笑んで「よくあることです」と言う。
競技を続けるなら別の陸上部に、辞めるなら社員に。
でもケガから復帰できずにいた廣瀬さんは、他の陸上部にも移れなくて、引退を余儀なくされた。

「だったら、マルフジ食品の社員に?」

「はい。でも、これは会社の雰囲気によるのですが、あの会社はあまり実業団に対して好意的ではありませんでした。当然ですよね。時間になったら部活に行くから大事な仕事は任せられないし、何年経ってもできないことばかりだし。かと言って競技で成果を出すわけでもなく。それで給料はしっかりもらうんですから」