「西永さん、野菜嫌い?」

名前を呼ばれて器から顔を上げると、いつの間にか下柳が隣にいた。

「好きな野菜と嫌いな野菜があります」

「さっきからずっとすごくマズそうに食べてるから、嫌いなのかと思って」

「この水菜、すごくおいしいです」

「だったらもっとおいしそうな顔すれば?」

はははは、と笑う下柳に、完全なる愛想笑いで対応する。

「西永さんって、同い年だったんだね」

ああ、それで急に慣れ慣れしい態度になったのか。
今3cm近づいたな、離れてよ。

「そうみたいですね」

慣れるつもりがないので、変わらぬ敬語で距離を取った。
ついでに5cm離れた。

「同い年なんだからタメ口でいいよ」

強く念じても、想いって伝わらないものだなあ。
やけ酒気味にファジーネーブルをあおる。

「下柳さん、何か新しいお飲み物、お頼みになられませんでしょうか?」

タメ口強要なんて断固無視してメニューを渡す。

「角ハイボール」

「かしこまりました」

ちらっと牧さんたちの方を見ると、ふたりとも飲み物がほとんどなくなっていたけれど、

「最初は下りだからスピード出るじゃないですか。アップダウンも続くし。でも横浜駅前でもラップタイムにあまり差がなかったのって、やっぱり計算してたんですか?」

「うーん、どうだったかな? 夢中だったので細かいことはあまり覚えてなくて」

話に花が咲きまくって大変オメデタイようなので、声をかけるのはやめて差し上げた。

「すみませぇぇぇーーーん!! カルピスサワーと角ハイボールひとつずつぅぅぅぅーーー!!!!」