自分から騙し合いを持ちかけたのに。
ぱあっ、と花が咲きほころんだみたいな笑顔を向けられたら、罪悪感に苛まれてしまう。
「やっぱり!俺も会いたかったんだ!」
私の右手を、学ランの男の子が両手で包み込む。
1週間前と変わらない。
小さな背とは打って変わって、大きな手。
汚れを知らなそうな、温かな手。
「んんっ!んんんんっ!!」
「万、この手を離せ」
「その殺気を綺麗に仕舞えたら、自由にしてやるよ」
いつの間にか、せーちゃんだけじゃなくてあず兄も、バンちゃんの手綱に引っ掛かってる。
おかしいな。
あそこだけ殺伐とした無法地帯に見えるんだけど、錯覚だよね?
「この前は、いっぱい連れ回しちゃったじゃん?」
「そ、そうだね」
学ランの男の子は反省してる素振りを1ミリも見せず、世間話をするテンションで話を続ける。
否定しないよ。
おかげで大変だったもん。
「それに、急に帰っちゃったから、新人いびりに巻き込んだお詫びも何もできないままだったし」
……ん?
「君のこと、気になってたんだよね」
「え、ちょ、待って!」
「なに?」
「新人いびり、って何?」