「あたしはね、ここができる前まではずっと双葉にいたの」

確かに落ち着いた雰囲気の綾乃は双葉に向いていると思った。

「辞めようと思ってたんだけどね、社長に止められちゃって
新しくできるシーズンズはあんまり女の子同士ばっちばちしてないし、できたばっかりのアットホームなお店だからって言われて移籍してきたんだけど」

「あたしも実はね~THREEからの移籍組なの!とは言ってもこの系列は1年くらいなんだけど、なんて言ってもうちの会社はブラックだからぁ~!」

美優がげらげらと笑う。

「ブラックは否定しないけれど、頑張れば頑張るほど稼げるお店ではあるわよ。
でもさくらはあんまりキャバ嬢っぽくないわね」

そうなのだ。

わたしはいまいち垢抜けないというか、この間まで化粧さえろくにしなかったから今日も自分なりにキャバ嬢っぽくしてはいるつもりでも、やっぱりどこか垢抜けなくて野暮ったい。自分自身でもよくわかっていて、恥ずかしかった。そんな女の子はこのお店のどこを見てもいなかったのだから。


「あ、噂をすれば社長じゃない」

「ほんとだ、暇だねぇ~、あの人も」

待機で座っている女の子に囲まれて話をしている、20代半ばくらいの男の人。
オーナーという名の会長がいるのは知っていた。だとすれば社長はその下ってこと?
こんなに若い人が社長?

茶髪の少し長めの髪で、いかにも遊んでそうな雰囲気の男。
長身で端正な顔立ち。モテてます、オーラなんか出ちゃってる。
女の子ひとりひとりに笑顔で声をかけていき、最後にこちらに真っ直ぐ歩いてくる。

高そうなスーツ、腕時計。身にまとう全てが高級ブランドのような人。全部が黒で統一されているけれど、空のような水色のネクタイが爽やかで、背筋をのばして堂々と風を切って歩く姿が自信に満ち溢れている。