小笠原はゆっくりとグラスを持つと、再びウィスキーを口に含む。
ひとつひとつの仕草がやっぱり上品に映るから、この人が彼女を指名しているのがやっぱり不思議でたまらないんだ。

グラスを静かに置いて、じっと真っ直ぐにわたしの目を見つめる。
それを逸らしてしまうのは、何故だったのか。

「人を貶すような言葉は聞いていて気持ちがいいもんじゃあないなぁ」

「…!」

「理由かぁ。
確かにゆりはあんまりお店の女の子にも良く思われてないんだよね。
気も強いし、性格も穏やかな方じゃあないから。
でも負けず嫌いで、頑張り屋な子なのは知ってる。単純かもしれないけれど、僕がこうやって飲み屋にくる理由はさ、日頃の疲れを癒しにきてるからなんだけど、若い子が一生懸命に何かに向き合ってる姿は自分の励みにもなったりするんだ。
それが理由かな」

言われてはっとした。

わたし…何やってるんだろうって。さっきのヘルプで着いたお客さんにだってわたしがわたしなりに出来たことがあったはずだって。
なのに何もしようともせずに勝手に傷ついて、いじけていたのはわたしだったのかもしれない。…かっこ悪い。たったあれだけのことで傷ついて子供みたいに泣いて深海を困らせて…。

「ごめんなさい!
なんかちょっと落ち込んじゃってて、変なこと聞いたり変なことを言ってしまって」

「何か嫌なことがあったのかい?
僕の方こそなんか意地悪なことを言ってしまってごめんね」

「違うんです!小笠原さんのせいなんかじゃないんです!というかなんか小笠原さんの話を聞いててすっきりしました!前向きな気持ちになれそうです!ありがとうございます!」


また目を丸くする。
そして、ははっと小さく笑った。 子供が面白いものでも見つけたように。

「面白い子だなぁ、君は」

「おもしろい?」

「勝手にバーッて暴走して、勝手に自己完結して笑ってる。
くるくる表情が変わって本当に面白い。子供の頃に見ていたアニメみたいだ」

「…ばかにしてます?」

そう言って、今度は2人で顔を見合わせて大声をあげてげらげら笑った。