それを思い出すから、小笠原にどうしても聞きたかったことを切り出した。

「小笠原さんは…どうしてこのお店で指名してる女の子はいないんですか?」

「なんでだろうね?」

いや…本当に聞きたかったことはそんな事じゃない。

「双葉のママと…
ONEのナンバー1の女の子は指名してるって…」

「由真…双葉のママは今はもう指名出来ないから。指名しているというよりかはママになる前にずっと指名をしていたから、お店に行った時は勝手に席につくというような感じなんだよ。彼女とはもう長い付き合いだからなぁ。

…ONEでは。
ゆりはなぁ。何で指名してるんだっけか」


‘ゆり’

小笠原がその名を口にした。
それだけなのに…たったそれだけだったのに、何故こんなに胸が締め付けられるような痛みが身体中を突き抜けていくのだろう。
その名が、彼女の存在が…わたしがこの場所に立っている理由のひとつだからだ。

「何で小笠原さんみたいな人が彼女を指名しているんですか?」

わたしの言葉に小笠原は目を丸くする。

「君はゆりを知っているのかい?」

「…いえ、会ったこともありませんけど…」

「あぁ、そうかい。まるでゆりのことをよく知っているような口ぶりだったから」

「会ったことないけれど…
知らないけれど、あんな軽薄そうな人…
小笠原さんみたいな人が指名している理由が全くわかりません」

今度は心底驚いたような顔になる。
自分でもびっくりだ。確かに会ったことも話したこともない人。そんな人に自分がこんなに嫌悪感を向けれるなんて。自分で自分にびっくりだ。