‘ONEではONEのナンバー1を指名している’それを聞いた時、自分の中で湧き上がる気持ちを感じた。忘れていた気持ちを取り返すように、その言葉だけが鮮明に頭で響いていたのだ。それでも微動だにしないわたしを見て、深海は口元にマイクを近づける。

「…さくらはちょっと…。
高橋、美優はいま抜けるか?」

そうインカムで深海が話し始めた時、今日1番大きな声が出た、気がした。


「行きますっ! 深海さん!お願いします!わたしに行かせて下さい!」

ほぼ無意識だったと思う。
でもきっとあの時逃げていたら、ずっと逃げ続けていて、いまここにいなかったと思うんだ。
いま、この場所に立てずに、元の普通の場所に戻っていたと思うんだ。




VIPルームはちょっとした高級なホテルのロビーみたいだったんだ。
きっと高いであろう装飾品が並べてあって、洋書のようなものが置かれている本棚もインテリアの1つなんだろう。誰の趣味だったのかは知らないけれど。
ふかふかの座り心地の良さそうなソファーが2つあって、大きな画面のテレビ。カラオケ完備らしいけれど、目の前に座る人はカラオケを楽しみにきた人じゃないってことは身なりでわかる。

小綺麗な身なり。整えられた短髪の髪に少し白髪が混じっているけれど、それさえも上品に感じる。身に着けているものも派手ではなかったけれど、拘りが感じるような高級品だった。

その人の第一印象は上品に笑う人、だった。

「さくらさんです」

そう言ってわたしを紹介した深海は心なしか心配そうにも見える。
頭を深く下げた後、VIPルームの扉は静かに閉められた。
ゆったりとしたBGMが流れる中、目の前の男はにこやかに笑い、どうぞ、とソファーに座るようにとわたしに促した。

「さくらです。初めまして」