よれよれのワイシャツの上に妊婦みたいなお腹がのっている。
髪も薄くて、前髪がちょろちょろとうねっている。その額からは汗が噴き出てて、暑そうに店のおしぼりで額を拭う。

額の汗みたいに流れている男のグラスの滴をハンカチでふき取っていると、体を前のめりにして顎に手をおさえながらわたしの顔をまじまじと見つめた。

「お前、ブスだなぁ」

それはさっきの高橋の言葉とは全然違い、悪意にみちているもの。

「てか、お前みたいな女がなんでこんな店で働いてるんだ?
自分の顔鏡で見たことないの?」

体温が上昇していくのがわかって、今すぐに消えたい気持ちになる。
さっきまでの1番になりたいって美優と話していたことや、ここに足を踏み込んだ日のこと、あの、悲しいくらい綺麗だった夕焼け空を思い出して、自分をなんとか支えていた小さなプライドさえ粉々に砕かれていく感覚がした。

それでも真っ赤になって何も言えないわたしに対して男は言葉を止めようとはしなかった。それがさらに無いに等しい自尊心を奪っていく。

「あ、あの…」

「あのさぁ、俺ははるなみたいな綺麗で胸のおっきい良い女と飲むために高い金払ってんの~。お前みたいなブスと飲むためにきてるわけじゃねぇんだよ」

「…」

何も言えなくなって、目頭がどんどん熱くなっていくのがわかる。
どうして?なんで?ここまで言われなくちゃいけないの?そんなことばかり頭をぐるぐると回る。
そんなわたしを知ってか目の前に、自分の飲んでいたグラスを乱暴に差し出す。

「え」

「え、じゃねぇよ!酒入ってねぇんだけど。
それにお前話も出来ないわけ?ブスな上に話も出来ないとかマジ終わってんな~
気も利かねぇしさ」

震える手で、空になっていたグラスを受け取った。
泣くな!泣くな!泣くな!そう言い聞かせているのに体はとても正直だから、グラスの中に氷を1個いれた瞬間、それと同時に涙がぽろっと頬を零れ落ちた。