久保と美優が声を合わせて漫才のような掛け合いをするもんだから、ふっと小さく笑ってしまった。そのおかげかさっきまでの緊張は少し和らいだ気がした。

「じゃあ、新人のさくらちゃんにおいし~い水割り作ってもらおかな」そう言いながら久保は目の前で倒れたグラスをわたしの方へ差し出す。

それを手に取り今度はゆっくりグラスにアイスをいれて、何とか焼酎の水割りを作ることが出来た。こんな基本的なことにも時間をかけるわたしを見て久保は「う~!初々しい女の子が作る水割りは美味しいなぁ~」と大げさに喜んでくれた。
とっても優しい人。さっきの美優が言ってた通りの人だった。


「美優とさくらちゃんも好きな飲み物飲んでね。
あ、さくらちゃん何歳?」

「わたしは18…いや20歳です」

さきほど深海と話し合って、18歳だけど20歳ということで働いていこうという設定をさっそく自分で忘れてしまっていた。それにまた美優と久保は大笑いした。

「さくらちゃん、嘘つくのへたすぎ」

「今時珍しい子だよね!
あ!久保ちゃんあたしはビール飲むぅ!
ね。さくらは何飲む?何が好き?」

「えっとじゃあわたしもビールにします」

美優が黒服を呼んでビールを2つ頼む。
実はお酒も飲んだことがない。美優がビールと言ったから合わせてビールを頼んではみたものの
「かんぱーい!」と3人でグラスを合わせてビールを口に含んだ瞬間、苦くて吐き出しそうになるのをぐっとこらえた。

‘なにこれ、苦っ!’

「さくらちゃん、美味しい?」

「お、美味しいです」

そんなウソ、2人にはお見通しだったらしい。

「実はお酒飲んだことなくって
でも全然飲めます!美味しいです!」

2人に気を使わせたくなくって、ぐいっともう一口飲む。大丈夫。何とか飲める。自分にそう言い聞かす。