「美優さん、お願いします」

美優と話していると深海がやってきた。

「はぁい。久保ちゃん?」

「おお」

「さっき携帯に飲みにくるって連絡入ってたから~」

その話ぶりから、おそらく美優に指名が入ったのだろうと思った。
綾乃や美優だけではない。他にも何人かの女の子を深海や高橋が呼びにきて、そのたびにあれは指名やらあれはフリーだと美優が言っていた。
お目当ての女の子に会いにくるのが指名で、フリーはこのお店に指名の女の子がいないお客さんらしく、指名のお客さんにはヘルプでついても名刺を渡したり、連絡先を交換するのはこの世界では御法度らしい。逆にフリーのお客さんは自分の指名客にするチャンスらしく20分程度で女の子がくるくる回転させられるらしい。さきほど深海から軽く説明を受けていたが、待機中に美優が丁寧に説明をしてくれた。

今きたお客さんは美優と連絡をとっていたということから、美優の指名客だろう。


「ね、深海さん。
さくら本当に何も知らないみたいだから、久保ちゃんの席につけていいかな?いまどぉせ暇でしょ~?」

待機にはまだ女の子がちらほら。まだ暇な時間帯らしい。

「まぁいいけど。忙しくなってきたら抜くぞ?」

「おっけぇ!さくら行こう!初仕事!あたしの指名のお客さんだけど、とっても優しい人だから」

「え?!」

混乱したまま深海と美優についていくことになる。
‘どうしよう’そんな事を考えながら

煌びやかな白を基調とした店内。履きなれないヒールでフロアを転ばないようにゆっくりと歩く。そこらかしこを小さくも柔らかく照らす照明で頭がくらくらする。緩やかなBGMの流れる店内はさっきまでの静けさと打って変わり、何人かのお客さんと女の子の談笑がそこらかしこから響いてくる。そんな中、さっき深海から教えられたお酒の作り方やら煙草の火のつけ方、何を喋ったらいいのか、そんなことばかりで頭がいっぱいだった。
背筋をのばしてお客さんと話す女の子たちは皆綺麗で、自分が世界で1番みすぼらしく思えた。