王子様みたい。

言葉にすれば本当に陳腐なものだと思う。実際にわたしたちの出会いは周りから見ればただのキャバ嬢とお店の社長で、ちっぽけな世界でありふれた物語なのだと思う。

「あ~!さくら、なんか顔赤くない?」

「やめてください!」

「さくら…有明はやめた方がいいわよ?色管理大得意なんだから」

「色管理?」

「さくらってな~んも知らないんだね!
色管理っていうのはね~お店の女の子に手をつけていかにも付き合ってるって感じで騙してね~お店で働くように縛り付けることなんだよ~!」

「まぁ、あたしは有明とはオープンの時からの付き合いだけど、出会ったころはただの黒服だったのに今じゃ社長なんだからね。あいつに泣かされた女の子何人見てきたことが」

「え!そうなんですか?」

「やだ、さくら。
本当に有明みたいのがタイプ?」


明らかに嫌そうに綾乃が顔をしかめる。隣で美優は楽しそうににやにや笑う。

「ちがっ!タイプとかそんなんじゃあ…。それにあたし…男の人と付き合ったこともないし、そういうのわかりません!」

「え?」 マジか。と言った風に綾乃と美優は顔を見合わせる。

自分で言っていて恥ずかしくなる。はぁ~っと大きなため息が漏れて、それと同時に1人の男の人が待機室に入ってくる。光とも深海とも違う男だ。
…これまた。スキンヘッドに鼻にピアス。鋭い目で、なんで夜の住人はこんなに人を威圧する人種が多いこと。

「綾乃さん!お願いします!」

その見るからにいかつい男は、見た目の気怠そうな雰囲気とは反してハキハキと喋り、大きな声で綾乃の名前を呼んだ。気怠そうに立ち上がったのは綾乃の方だった。