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「こちらの商品、定期購読されると5パーセントお安くなりますが、どうしますが?」


レジへ向かったふたりに、店員がそう声をかけた。


「定期購読ですか?」


本屋のシステムを知らないアケミは首をかしげている。


「毎号予約していただけると、割引になります」


店員がかみ砕いて説明する。


「へぇ、そんなのがあるんだ。毎週この書店に買いに来るってことですよね?」


千夏がアケミの隣からそう聞いた。


店員はにこやかに頷く。


「でもお金がない時は買いに来れないし」


アケミが言う。


「一か月間でしたら、店舗で保管できますが」
「一か月あれば次のお小遣いも出るし、大丈夫じゃない?」


千夏はすでに定期購読する気満々になっている。


「まぁ、いっか。バイトすればいいし」


アケミも千夏の言葉に流されるようにして、頷いたのだった。
雑誌を購入したふたりは近くのファミレスへと移動して来ていた。


「明日は内田来るかなぁ?」


オレンジジュースを飲みながらアケミが言う。


「さぁ? 来たらどうする?」


「そろそろ呼び出ししなきゃでしょ。 雑誌も定期購読することになったし、バイトしなきゃバイト」


アケミの言葉に千夏は笑い声を上げた。


「アケミの言うバイトって、ただのタカリだから!」


「当たり前じゃん、誰が本気でバイトなんかすんの? 内田の家は裕福らしいし、ちょうどいいじゃん」


「そんなことしてるから、良樹が怯えるんじゃん」


千夏が笑いながら言う。


「え、良樹怯えてた?」


「どう見ても怯えてたでしょ! 気が付かなかったの?」
あれで気が付かないなんておかしい。


そんな目でアケミを見ている。


「えぇ~? だって和明の前だったし、普通に話かけたんだけどなぁ」


「和明の前だけで良い子のフリしようとするから、ボロが出るんだよ」


「なによ、あたしは良い子でしょ?」


アケミはそう言い、自分で笑い出した。


「でもさ、良樹は和明と仲良いから、態度にも気をつけた方がいいよ?」


気を取り直して千夏が忠告をした。


「わかってるよ。和明もさっさとあたしと付き合えばいいのにさぁ」


アケミはそう言って頬を膨らませた。


「サッカー一筋だから簡単には落とせなさそうだよね?」


「そうなんだよね。あたしと付き合えばクラスでも一目置かれるのに」


「和明ってそういうの興味なさそうだもんね」
千夏がそう言うと、アケミは大きなため息を吐き出した。


「いっそ脅して付き合えば?」


「なに言ってんの千夏」


「内田のことは脅して現金奪うんでしょ? アケミならできそう」


「できても、やるわけないじゃん。あ~あ、和明みたいにいい男がいないかなぁ」


「……それならさ、このドールを和明に似せて作れば?」


千夏の言葉にアケミはストローから口を離した。


「え?」


「ほら、このドールってパーツが何種類か付属されてるんだよね? その中から和明に似たものを見つければいいんだよ」


「そりゃそうかもしれないけど、そんなに都合よく入ってるかな?」


「わかんない。せっかくだから開けてみる?」
千夏はそう言いながら袋から雑誌を取り出した。


「初回は両手両足が入ってるみたい」


雑誌の説明を読み、付属されている箱のテープを剥がし始めた。


「初回なのに手足って。顔とかじゃないんだね」


「それは後からのお楽しみなんじゃない?」


答えながら、アケミは身を乗り出すようにして千夏の手元を見ている。


頑丈なテープがようやく剝がれ、中から透明ケースが姿を見せた。


そこには色違いの手足、しかし手首から先だけのものと足首から先だけのものが、3セット入っている。


それを見た瞬間二人の間に沈黙が流れ、数秒後笑い声が響き渡っていた。


「なにこれ、殺人現場みたいなんだけど!」


千夏がそう言い、テーブルを叩いて笑う。


「あたしもそれ思った! 意外とグロイし!」


3種類の手足は色が違い、白色に近い肌、黄色に近い肌、茶色に近い肌になっている。
「3セットずつ入ってるってことは、3種類のドールが作れるってことだね」


ようやく笑い終えた千夏がそう言った。


「そうだね。それでこの値段なら安いのかも」


たとえ素材が悪くても、そんなのはどうでもよかった。


「でもさ、好きな人にそっくりなドールを作るなんて、変態ちっくだよね」


自分がドールを完成させる場面を想像したアケミはそう言い、また笑いに包まれたのだった。
☆☆☆

翌日、ふたりがイジメの対象としている内田が学校に来ていた。


「今日は来たんだぁ?」


そんな内田を見つけて、さっそくアケミが声をかけた。


アケミの三倍は体重がありそうな内田が、小さく縮こまって椅子に座っている。


「ねぇ、返事くらいすればぁ?」


すぐにやってきた千夏が内田へ向けてそう言った。


内田はふたりと視線を会わせることもできず、ずっと俯いている。


「昨日は内田が来なかったから、あたしたち心配したんだよ?」


アケミの言葉に内田はビクリと体を震わせた。


恐怖心から額に汗が噴き出している。


「心配してあげたんだから、ちょっと付き合ってよ」


千夏が内田の腕を掴んで引っ張る。


「ど、どこに行くの?」
そこでようやく内田が声を上げた。


見た目とは裏腹に高くて女の子らしい声だ。


けれど、内田がイジメに遭う理由になったのは、この声のせいだった。


「いいから、早く行くよ」


千夏とアケミに挟まれながら、内田は言う通りに教室を出るしかなかったのだった。