『――速報です。

スペイン行きのXX940便の飛行機で爆発が起こったとの情報が入りました。爆発の原因は不明。インド洋方面に下降し、墜落したと見られています。

現在、救助隊が捜索していますが、生存者はいまだ確認できておりません。続報が届き次第、お伝えします。

繰り返します。先ほど、スペイン行きの――』






偉大なる大海に、荒波が立つ。


大人の半分にも満たない小さな体が、人気どころか生物の気配ひとつ感じないどこかの岸辺に打ち上げられていた。


暁色の空の下、黄金に透けたきれいな髪に、少し鈍い赤色がしみている。

頭に駆け抜ける激痛で、その子どもは意識を覚ました。しかし、思うように息ができない。変な匂いもする。

起き上がろうとするも、足があさっての方向を向いていて立つこともままならない。痛みが強くなるばかりだった。




(ここはどこ? パパとママは?)




泣きたいし叫びたくて仕方がないのに、痛覚がそれを許してくれない。煙たい空気が声をも奪っていく。限界は近かった。



そんなとき。


ジャリ……。


不意に、足音が聞こえた。



おぼろげの視界の中、男物の黒いブーツが入り込む。

顔を上げたくても上げられない。なぜだろう、怖くて仕方がなかった。

震え上がる恐怖心に追い討ちをかけるがごとく、目の前にいるであろう謎の男は舌打ちをし、重々しくため息を吐いた。




「……ガキが生き残ってんじゃねえか」




聞こえてきたのは、日本語。




(……あ、そうか。ゆめだ。これ、ゆめなんだ)




ブロンドヘアの子どもは、思った。


だって、ここはスペインのはずだ。知らない現地の人が日本語をしゃべるわけがない。

だから夢だ。絶対。悪い夢なんだ。

次に目を覚ましたら、パパとママがいて、スペインにもう着いてるよと教えてくれる。悪い夢を見たと抱きつけば、もう7歳でしょう? と言いながらも頭を撫でてキスをしてくれる。そうだ。誕生日プレゼントもくれるはずなんだ。だから……。


ガラス玉のような黒い瞳から、涙があふれた。頬を伝っていくにつれ、黒く、赤く、汚れていく。

目を閉じれば、いともたやすくまた意識を手放せた。



おはよう、大好き──そんないとしくてあたたかな声がどこからか降ってきたような気がして、すべての苦痛を忘れられた。







「──……まあいいか。生きてみろよ、クソガキ」








あなたになら殺されてもいい。








地元で一番栄えている繁華街から、道をそれた先にある、外れの町。

とたんに閑散としたそこに、まるで町の象徴だったかのようにたたずむ大きな洋館が、心許ない月明かりに照らされていた。




「ここか……」




その洋館の前で、少年、成瀬 円(ナルセ エン)は足を止めた。

手に持っている、簡易的な手書きの地図と照らし合わせ、やっぱりここだと確信する。してすぐに、本当にここなのか、どうしようもない不安がよぎった。



周囲の荒地に忘れ去られたボロボロの空き家を4棟足してもあまりある、洋館の膨大な敷地は、例に漏れず廃れた雰囲気をまとっている。


腐った跡のあるツタと黒煙の汚れに覆われた屋根と壁。

泥でまみれたタイヤ跡であふれ返った玄関前。

錆びついた窓と、閉め切ったカーテンによって内側から光の漏れない陰鬱としたオーラ。


そんな不清潔な外観に反して、玄関の扉や窓枠などところどころに施された黄金の装飾は、どれも手入れが行き届いていて光沢がある。

空気はとても澄んでいて、異臭がしないどころか、庭園に咲き誇る深紅の薔薇の香りで満ちている。



だから、よけいに怖い。


何かある。

ここには何かがある。



成瀬はしばらく立ち尽くしていた。得も言われぬ恐怖に、らしくもなく足がすくんで動けなかった。

街から追い出されたようなこんなへんぴな場所に、人が住んでいるとは思えない。幽霊の住処だと言われれば、納得できてしまいそうだった。

逃げてしまおうか。元より来たくて来たわけじゃない。仕方なくこの地図のとおりに来ただけだ。こんなところに用はない。やめてしまえばいい。何もかも。



けれど、わかっている。

ここまで来てしまえば、もう、逃げられない。



彼は、知っている。


ここに何があるのか。

その正体を。



彼だけではない。この街に住む者ならば、誰もが一度は耳にしたことはあるだろう。知っていたらふつうは近づかない。

ガキ大将の度胸試しも、ミーハーなLJKのお遊びも、会社員の嘲笑う肴も、老人の確証のない否定も、その噂には何も効かず、ひれ伏すほかない。それほど有名で、異質で、怪しい噂。

絶対的な、暗黙の了解。





――あの館は、“神雷(ジンライ)”のもの。立ち入ったら最後……。







遡ること、8時間前。





『──アクションッ!』




都内某所のスタジオ。

カメラ、照明、音声、多くの機材とそれ以上のスタッフに囲まれながら、青い袴を羽織った少年、成瀬は精密に作られた模造刀を振りかざした。



『俺の名は、土方(ヒジカタ) トシヤ。土方 歳三(トシゾウ)の弟だ!』




『……カット!』



カチン、と音が響いたのを皮切りに、スタジオ内は忙しなく動き始める。



新年一発目に放送を予定している月9ドラマ。

【純真な刃】

新選組壊滅後、タイムスリップしてきた男子高校生・トシヤが、土方歳三の弟と騙り新たな新選組を立ち上げ、戦い抜いていく物語。


その撮影が、今日ついに始まった。


12月の寒さをもろともしない荒い息遣いが立ち込めるなか、主役のトシヤを演じる成瀬はひとり、熱をあげることなく、持っていた刀をすぐさまスタッフに放り投げた。

呼びかけるスタッフの声も聞かずに黙って歩いていく。大きなカメラの、その隣、男性特有の肩幅ががっちりした背中の元へ。

ひときわ広く感じるその背中が、今、振り返ろうとしていた。




『円! ちょっとこっちに……』

『もういます』




振り返るより先に、成瀬は横に並び立つ。


成瀬よりも頭ひとつ分大きな男は、名を風都 誠一郎(カザト セイイチロウ)といい、この現場を取り仕切っている。背丈だけでなく権力も一番でかい人間だ。

これまで映画を専門に携わり、数々の賞を総なめにしてきた名監督であり、齢40にして早くも映画作りで右に出る者はいないとまで噂されている。


そんな彼が初めてドラマに挑戦するということで、放送前からすでに話題を呼び、期待値が日々更新されている。

それでこの熱気だ。

あの風都監督と一緒にやれる。最高の作品をつくってやる。がんばりたい。今にも湯気がわきそうなほどやる気に満ちあふれ、現場の士気は自然と上がり続けていた。


ただひとり、主演を除いて。




『なに、監督』

『よく呼ばれるってわかったな』

『本読みのときもリハのときも呼んでたじゃないですか』

『なら呼ばれる理由も自覚してるってことか』

『……はあ』




肯定ともとれるため息に、風都はやれやれと肩をすくめ、カメラ横に設置されたモニターに手を置いた。

モニター画面に、撮りたてほやほやの先ほどのシーンが流れる。昼休憩をはさみ、ヘアメイクやセットの手直しを完璧に仕上げてからの撮影だったからか、1分も経たずに終わるにしてはもったいない華やかさがあった。


太陽の下を生きているとは思えない透き通った白い肌を、戦闘中の汚れをイメージしてわざとすすけさせてもなお、美しさを損なわない浮世離れした顔立ち。

銀の光のすべる刀を振った瞬間、あでやかになびく衣装と、ドラマのために肩に触れるほど伸ばし、黒く染めた髪の毛。

なんてことのない立ち姿さえ、戦国時代の舞台セットも相まって、凡人には出し得ない圧倒的な存在感を放っていた。




とてもじゃないが、役柄と同じ高校1年生には見えない。

芸能界デビューは高校入学とほぼ同時期。つまり、まだ1年も経っていない。

その華は、生まれ持った才能と評するほかなかった。


まさになるべくしてなった本物の主人公。次世代のスター。

そう世間に騒がれる成瀬が、初めて連続ドラマの主演に抜擢されたことも、ドラマの話題性をぐんと高める所以のひとつであった。




『かっこよく撮れてるよな』

『……』

『だが、何も感じない』




もてはやす世間の声をぶった斬る、風都の鋭い一言。

またか、と成瀬は思いながらも、相槌代わりの返事をするだけだった。




(何も感じない……。言われたの何回目だ? まあそうか。そうだよな。よくわかってるよ)




さすが監督。見る目はたしかだ。噂されているだけはある。かっこよく映っているのもきっと監督の腕なんだろう。

映像作品への出演は数回、一度だけ運よく映画の主演を務めたことがあるくらいで、あくまで主戦はモデル業。演技経験は少ない。

口から吐き出すのは、単なるセリフ。何の意味も持たない。空っぽなのだ。

そんなことは理解していながら、中身を詰めようともせず、ずっとふたをしたまま平然とやり過ごす気でいた。




『お前は誰だ』




突然の問いかけに、虚を突かれながらも答える。




『……俺は、俺ですけど』

『いいや』

『は?』

『土方トシヤだろう?』

『……』

『ここは仲間のピンチでようやく覚悟を決めて戦うシーンだが、円、お前のトシヤに覚悟はあったか?』

『…………OKを出したのは監督でしょう』

『ま、主人公感が出てるのは事実だしな。及第点だ』




及第点。バカは騙せても、わかる人にはわかってしまうぎりぎりのライン。本読みやリハのときから変わらない評価だ。

今のお前にはこれ以上は無理だ、と暗に告げられているようだった。


成瀬に悔しいなどという感情はない。むしろ意外だと少し驚いていた。

あの名監督である彼が、まさか本番でも妥協を許すとは思っていなかったのだ。

リテイクが続き、時間が押すかもしれない、そっちの覚悟は一応していた。かといってふたを開ける気もなく、どうにか騙せやしないか考えていたところだった。




(一発OKはありがたいけど……いいんだそれで? それとも失望? 諦め? 別に降板してもいいんだけど)




風都の顔つきに、それもちがうかとはっきり思った。

老いではなく40の年齢をきれいに積み重ねた、凛々しい大人の香りのするその顔には、一切の翳りもなく、夜明けのようなやさしさを帯びていた。


妥協でも失望でもない。

許容だ。


わかろうと、わかりたいと、歩み寄っているのだ。





『お前はどうしてここにいるんだ?』

『……オファーくれたからでしょ?』

『この業界にいるのも成り行きか?』

『まあ……そうっすね。スカウトされて、じゃあ、つって。それなりに稼げますし』

『言われるがままか。人を殺せって言われたら殺すのか』

『は? 極端。俺だって心のノートくらい持ってますから』




真面目に言う成瀬に、ふ、と風都は噴き出した。モニターに置いていた手を成瀬の頭の上へ移すと、『ああよかった、そうだよな』とセットされた黒髪をとかすように撫でた。

とてもあたたかい手だった。

数回頭の上を往復すると、あっけなく離れ、すぐにペンを抱えた。そこらへんにあった紙切れに線を引いていく。




『よし』

『……?』

『円、このあと予定は?』

『ない、けど……』

『よかった。じゃあ撮影が終わったらここに行くといい』




渡された紙切れには、どこかの地図が記されていた。




『なにこれ』

『円は俺と地元同じだったよな』

『え? ああ……そういえば……?』




顔合わせのとき、軽く挨拶しがてらそんな話をしたような気がする。だが、それがなんだと言うのだ。




『なら行けばわかるよ』




風都の迷いのない眼差しに、思わず息を呑んだ。

手のひらと同じあたたかさを感じるその目。その上に深く刻まれた古い傷痕が、一転して、ほのかな凄味を孕んでいて背筋が震えた。


まさかと思った。

地図を見返し、もう一度風都を見やれば、不敵に笑いかけられる。




『お前に、俺の名をやろう。今日からお前が――“侍”だ』



『さ、さむらい? 俺の名って……』

『そこに行ったら、そう名乗れ。迎え入れてくれるはずだ』




いっこうに答えを教えてもらえず、成瀬はわかりやすく困惑していた。まさか、と思い当たってしまった考えに、現実味が増していくばかりで頭が痛くなる。

せめて理由だけでも問いただしたかったが、タイミング悪く次のシーンの準備が整ってしまった。スタッフに呼ばれ、スタンバイしながら、仕方なく地図の示された紙切れを懐にしまいこむ。


その一挙一動を、風都はちゃんと見守っていた。


“侍”。何十年ぶりかに口にしたその名は、とてもなつかしく、いとおしく、けれどやはり少し痛い。あの袴のように青々とした記憶が、脳裏を駆けめぐる。

よみがえるかつての自分に、成瀬の姿を重ねた。




(円。お前なら大丈夫。たとえ失っても、忘れても、大事なものは消えやしない。

──行ってきな、あいつらのところへ)




撮影が始まる。

カメラ横の椅子に座り、台本片手に合図を送った。よーいアクション。物語が、動き出した。






「ぎぃやああぁぁぁ!!?」




現在の時刻、21時半過ぎ。

怖いくらい静かだった洋館から、突如、お化け屋敷でしか聞かないような絶叫が響き渡った。

玄関の扉に手を伸ばしかけていた成瀬は、反射的に手をひっこめた。




(な、なんだ? 中で何が起こって……)




直後。


バァン!!!


触れてすらいないはずの扉が、勢いよく開かれた。


吹き飛ばされかけた成瀬の足元に、絶叫とともに鉛のような重みが転がってくる。おそるおそる見下ろせば、見知らぬ男が倒れているではないか。

20代後半だろうか、苦しそうに咳き込む男の血反吐で、靴が赤く濡れていく。




(な、何が……いったい何なんだよ……!)




ここに人が来ることは滅多にない。ここの住人なのだろうか。そうでなければ、選択肢はあとひとつしか残されていなかった。

震え上がる心臓。乱れる脈拍。鈍る思考。

身体が重い。ぐわんぐわんと揺れているような、下へ下へと沈んでいるような、形容しがたい気持ち悪さに襲われた。



(監督は行けばわかるっつってたけど……けど! よりにもよって……!)




正直、予想はしていた。そんなまさかと信じられずにいた。今も本当は信じたくはない。

それでもゆっくり、ゆっくり、肩に担いでいる稽古用の木刀を手に持ちかえる。監督が念のためにと持たせてくれた物で、服装も動きやすい稽古着のほうがいいと助言を受けていた。

そのときから心の底では覚悟していたのだ。



自分の身は、自分で護らなければ。

ここは、そういう場所だ。




「あら。またお客様?」




コツ、コツ、コツ。

館の中から、また、聞こえてきた。




「あなたも、私たちに用かしら?」




甲高いヒールの音。

夜空を牛耳る月の光を奪い尽くしたかのような、黄金の髪。

弧を描く、真っ赤な口紅。


木刀を構える成瀬の前に現れたのは、陶器でできた人形と見まがうほど気高く、隙のない、小柄な美少女だった。




「ようこそ、神雷へ」




――神雷。



治安が悪いことで有名なこの街を、裏から統べる、最強で最凶の不良集団。

弱肉強食、力こそすべての世界で、5本の指に入るほどの実力を持ちながら、一部からは自警団のように崇められている、世にも珍しい暴走族である。



暴走族だなんて時代遅れにもほどがあるが、そうバカにできないくらいここの治安は本当に終わっていて、物理的に支配してくれる存在は、当然おそろしいものだが、その実、頼もしくもあった。



しかし、いざ近づくとなると話は変わってくる。

神雷には隠れファンも多いらしいが、空気を読まず騒ぎ立てるようなバカはいない。

誰だって敵に回したくはないのだ。ふつうに生きて、ふつうに暮らしていたい。それは成瀬も同じだった。


だがもう遅い。

テリトリーに立ち入ってしまった。


そう、ここは、この洋館は――誰もがおそれる、神雷のたまり場なのだ。




地獄の入口で、謎の美少女は、受付嬢さながらにそれはそれはきれいに微笑んでいた。

腰あたりまである長い金髪を、慣れた手つきで払いのける。ゆるく波打つ金糸が、星ひとつ見えない闇夜をきらきらと照らした。



一見、物騒なこの場に似つかわしくない、異分子のような存在に見えるが……


――あの館は、神雷のもの。立ち入ったら最後……。


なぜ驚く必要があるのか。その存在を誰もが無視することはできないのに。



成瀬も例に漏れず、何もかも忘れて、大きく瞠った目にその姿を焼きつけた。


コツ、コツ、コツ。8センチはあるであろうピンヒールが、静寂を切り裂くように迫り来る。

漆黒に染まる、タイトなミニ丈ワンピースから覗くすらりとした足には、倒れた男のものと思しき血痕が付着していた。

本人は気にも留めていない。それどころか、口紅の色と似通っているせいか、ワンポイントの差し色のようで、他人にもさして違和感を働かせづらい。

妖しいオーラに、包まれていた。




「……侍……」




不意に、謎の少女が成瀬の顔と木刀を一瞥し、ぽつり呟いた。

成瀬はハッとする。


ようやく時間が進んだのを感じた。




「そう、あなたが……ふふ。ちょうどいいわ」

「え……?」



「――おいゴルァァ! 逃げんじゃねえ!!」




館の奥のほうから、さっきとはまた別の絶叫がした。体の大きな男が突進してくる。何日も洗濯していなさそうな薄汚れたよれよれのTシャツ。黒ずんだ手には、黒光りした銃があった。


明らかな殺意。

神雷のテリトリー内で、そんなことができてしまうなんてふつうじゃない。

やはり成瀬の予想は正しかった。

奴らは神雷と敵対関係にある同業者。端から敵なのだ。


本能的に逃げようとした成瀬だが、謎の少女がそれを許さない。いつの間にかゆるんでいた手元からいともたやすく木刀を奪い取られた。目にも止まらぬ速さで、成瀬の背後から刃先を向けられてしまう。




「っ、は……は……」

「運の尽きね」




それは誰への言葉だったのか。


薔薇の香りがふわりと漂った。首の皮に棘が刺さっているような圧迫感との差に、脳がバグる。

実際、苦しくはない。ぎりぎり苦しくない程度に差し押さえられている。


天国と地獄の天秤にかけられている。すべては彼女のさじ加減。


憐れだなと、成瀬は遠い目で洋館を見つめた。

沸騰した殺意を爆発させてやってくる見知らぬ男2人目も、もちろん、自分自身も。




「ックソアマァ!! よくも……!」

「あら。彼がどうなってもいいの?」

「あ゛!? 彼!?」

「…………えっ、俺?」




何を言ってんだこいつと意思疎通する初対面の男たち。

さっきまでの空気が嘘みたいに白けていく。

気まずくて仕方ない。




(本気で俺まで敵だと思われてるわけじゃ、ねえ、よな……? ちげえよな!? つうかそもそも相手は銃! こっち木刀! 脅すにしても強引すぎだろ!!)




図らずも巻き込まれ系ヒロインの気持ちを知るはめになった成瀬は、ひとまず謎の少女の様子をそろりと窺ってみる。

愉悦そうに光る瞳。

どこまで本気なのだろう、混乱状態から抜け出せない成瀬をさらに弄ぶように、謎の少女はこそっと耳打ちをした。




「さあ、起きなさい。あなたは、あの男の下っ端。兄のように慕っている、ただの弱い下っ端」

「し、下っ端? 急に何……」

「さあ」

「絶対俺が誰か知って……」

「ようい、アクション」




パチン。指の弾く音が、否応なしに鼓膜をつんざいた。