まあ、もう二度と会うこともないだろうし、大丈夫。もう会っちゃいけない。
あの人に会うとわたしが壊されてしまいそうだから。
「あ、結局上着……持って帰ってきちゃった」
どうしよう……。
彼はもらっていいって言っていたけどこれは彼のものだからちゃんと返さないといけない。
明日もここに来たら会えるかな?
……なんてね。
向こうはわたしに会いたくないからあげるって言ったんだ。
なのに、わざわざ返しに行くのは迷惑だよね。
そう思いながら肩から羽織っている上着に腕をとおして、冷えた手にふぅ、と息を吹きかける。
すると、上着からかすかに少し甘めな香水の匂いがした。きっと彼の使っている香水の匂いだ。
なんで……こんなにも安心するんだろう。
「……今日は、また一段と星が輝いて見えるなあ」
ぽつり、と呟いた言葉はしんみりとした深夜の闇の中に消えていった。