放課後、一年二組の教室で、私はトロンボーンを組み立てる。
私のトロンボーンは、銀メッキだ。
普通はみんな、金色のクリアラッカーとか、そういうのを使うのだけど、私の兄が発注して銀にしてもらったらしい。
 教師に教室を使う許可はとってある。吹奏楽部に入れとか言われたけど、
「私は一人で吹きたいんです。音楽大学めざすんで」
と軽く嘘をついておいたら、難なく許可してくれた。
将来に関係あるとなると、教師は協力してくれる。
もちろん音楽大学なんて目指しているわけがない。そんな技能は持ち合わせていない。
 バッグからノートを取り出し、開く。
私が作った、練習ノートだ。
いつもやる基礎練習や音程表など、いろいろ書いてある。
 楽器からマウスピースをとって、口に当てる。
ぶーーぶーー
金管楽器から出る音は、本人の唇の振動でつくられている。
振動を楽器に伝える部分、それがマウスピースだと考えてもらえれば良い。
マウスピースを楽器につけ、構える。
パーーーーン…余韻。
明るく弾けるトロンボーンの音色が、私は好きだ。
今まで時間をかけて鍛えこんできたこの音は、そこらの吹奏楽部員とは違う。
自分の音が、やっぱり好き。