また無言が始まる。
話題無い。初対面の人とは何話せば良いんだ。
「小柳が背負ってるのって、楽器でしょ」
また話題をあげたのは高橋くん。
いきなりの呼び捨てに、驚きと少しの険悪感を抱いた。
「そうだよ。トロンボーン。吹いてるの」
「吹奏楽部?」
「違う。一人で。放課後に教室借りて練習してる」
「へー」と相槌を打ってから、「あのね」と顔を私に近づけた。
この人、マナーなってないよな。
私じゃなかったら多分もう既にシカトしてる。
「実は僕も楽器やってる。」
「前の学校では吹奏楽部とか?オケ部?軽音?」
楽器をやっていると言っても、吹奏楽とは限らない。私みたいに一人で練習したり、レッスンに通っている人もいるから。
「全部不正解。地元の英国式金管バンドに入ってた。」
 英国式金管バンドは、その名の通り金管楽器を主体として構成されている。
木管楽器は無く、金管楽器と打楽器のみだ。
「珍しいね。楽器は何だったの」
「それがびっくりで、僕もトロンボーンなんだ。バス」
私も驚いた。まあ、トロンボーンをやっている人はたくさんいるから、こういう事もあるんだろうけど。
「バストロか。私はテナーバスだよ。」
バストロとは、吹奏楽などでは主にベースラインを担当するトロンボーン。
テナーバスは吹奏楽やオーケストラでもいつでも使える楽器、だと勝手に思ってる。
テナートロンボーンってのもあるのだけど、テナーバスはテナートロンボーンに管を補って、腕を伸ばさなくて良いようにしたものだ。
「じゃあ高橋くんは吹奏楽部に入るのかなー?」
「それが、迷ってるんだよね。金管バンドはもう遠くて通えないからさ。吹奏楽部って、女子しかいないイメージあるし」
確かに、吹奏楽部に男子がいると目立つけど、
女子は男子が入ってくれるとすごく助かる。
楽器運搬が主に。