放課後、一年二組。
いつも通り楽器を出すと、ケンも教室に入ってきた。
「こんにちはー小柳先輩」
「はいこんにちは」
適当に交わした挨拶。先週まではあり得なかったこのやり取り。意外と楽しかったりする。
「今日はなんと、私の家からマウスピースを持ってきましたー」
じゃじゃーんと机に向かって手をひらひらする。
机の上にはマウスピースが6本。
大きさや形も様々だ。
「うおー!すごい!」
「特別にどれか貸してあげます」
「えっほんと?!ありがとう!」
彼が騒いでる姿はまるでやんちゃな中学生だ。
彼は素早く楽器を出すと、椅子をセットして座った。
「吹いても良いですか先輩!」
「どうぞ」
「じゃあ、これ」

バーーン
バーンバババババババーン…
静寂が訪れた。
「息そんなに入れてないのに、すごい勢いが…」
「浅めのやつだからね。これは無しかな。次はこれ」
 一通り吹いて、良し悪しは分かった。
あとは彼の吹きやすさで選ぶ。
「これにします、先輩」
「おっけーです。新しく変えるまで、使っていいよ」
「なんでこんなに持ってんの」
「兄が楽器やっててね。
このトロンボーンも、もともとは兄の。今はユーフォニアムしてる」
そう、私の兄は現在趣味としてユーフォニアムをしている。
だから、もうトロンボーンは吹かない。