「りーりー!朝ー!!」
お母さんの声だ。「うんー」と返事してから、自分の部屋を出る。ボサボサの髪の毛を手櫛で整えながら、トイレに向かう。トイレを済ましてから、洗面所で顔を洗って自分の顔を見る。
眠そう。自分。頑張れ。
 朝食はパンとウインナーのみ。
うちの朝食は栄養がほとんどない。
まあ、美味しいからそれでよい。
 食べ終わってから制服に着替えて、髪の毛を結う。ピンで触覚部分を止めて、ぱっつんの前髪を整える。
 バッグを持って靴を履いて、「行ってきます」の一言でいつもの学校生活が始まる。はずが、家を出ると見覚えのある顔が。
「おはよう小柳」
「おはようございます」
朝一番、出発してから初めて見る顔は、昨日からケンであった。
「よそよそしくない?小柳さーん」
なんかこう言うのって、彼氏彼女みたいじゃない?なんでわざわざ迎えに来たの。
「昨日あったばっかなのに、馴れ馴れしいのはそっちです」
無表情を貫き通す。いかん、ここで浮かれていては。
 今日はこっちから話題を探そう。
「そういえばケン、クラスはどうなの」
「5組だった。友達もできたと思うけど、女子がちょっとうるさいかな」と頭をかきながら言う。やっぱりケンはモテるはず。そう思っていたからなぁ。
「わかるー。女子ってうるさいよね。周りに合わせてさ。勉強もまともにせずに彼氏が~とかさ」
ブーブー言ってたら彼も「それな」とか「うん」と相槌を打ってくれる。
「小柳って友達いないんでしょう」
「いないよ。だから、ケンが高校の友達第一号」
イエーイと手を上げるケンだが、私的にはそこまで嬉しいことではない。
「中学の頃は?友達いたの?」
「もちろんいたよ。部活入ってたし」
「やっぱ吹奏楽部?」
「あったり」
ぱちぱちと五回ほど拍手をして、また無表情に戻った。
「ま、中2の秋でやめたんだけどね」
「なんで?」と聞く。聞くと思った。
「人間関係のねじれね。多分。そこにいるのが辛くなって。下手だったし、私なんかいてもいなくても一緒じゃんって思って。周りにも馬鹿にされたし」
今思い出しても辛い。周りからも
「下手だ」「練習してよ」と責められ、練習してもうまくならない私の言葉には誰一人耳を傾けず。私の味方は、親友だったミユウとアサちゃんだけだった。
「今の小柳を見たら、バカにした奴らも頭が下がるだろうね」
「そんなことない。私、全然変わってないから。多分、一人で練習してる私を憐れみ笑ったと思う」
「僕はずっと尊敬してるよ」
「はいはい。ありがと」