「小柳の音もききたい。きかせて」
一度頷いて楽器を構える。
パーーン…余韻。
パーンパパパパパパパンッ…余韻。
静寂。その後に、静寂を打ち消す吹奏楽部のトランペットのハイトーン。
彼は一言も言葉を発さない。
トランペットの薄い音と、深く響くクラの音。
ここの吹部、クラだけはめちゃくちゃうまいんだよな。
そんなことを考えながら、彼からの返答を待つ。
「…い」
やっと喋った。でも、聞き取れない。
「すごい、くるね」
ここに、と自分の胸を叩きながら言う。
「何それ」
「感動を表してる」
どうやら私の音で感動してくれているらしい。スケールを吹いただけなのに。
「なんか、小柳の音って、こう…イメージ的にね」
うーんと声を上げながら考えている。
「なに」
「…寂しい音?」
私の音が?
今まで私は、明るく響く、元気になる音、みたいなイメージで練習していたのに?
なのに、寂しい?
「やっぱり音楽って、本人の気持ちが音にあらわれるって言うやん?だから小」
「私が孤独って言いたいの」
私の低めの声が教室に響いて静かに消える。
あの怖い女教師を連想させた。
はっと驚いて彼は縮こまる。ごめん、と一言つぶやく。
「私が孤独で寂しいから、音も寂しいって」
そう言いたいということだろう。
「いや、小柳のことはよく知らない。今日初めて会ったし、クラスも違うからね。」
改まって私をみて続ける。
「直感で、そう感じただけ」
 しばらく目を見つめ合っていた。お互いの目の奥の色を伺っていた。
 私はショックだったのだ。
いままで鍛錬を繰り返して創り上げてきた音を、「寂しい」の一言で表されてしまうということ。
 技術を向上させるのに必死で、楽しさを忘れていた?
技術は周りより上。でも圧倒的に気持ちが違う。そういう事だ。