最初はロングトーンをする。
チューナーという、音程を見る機械を見ながら、音程を整え、発音と音の切り方を整える。 
その次はスケールの練習。その次は唇で音を変える練習をするリップスラー…
毎日一時間ほどかけてする基礎練習は、私の音をより洗練された、美しい音へ導いていく。
吹奏楽部には入っていないから、曲を練習する必要もない。自分のペースで練習できる。
そして、一時間の基礎練習が終わったら、練習曲集を開く。
 その時だった。
ガラガラと音を立てて開いたドアに手をかけていたのは、高橋。
「あ、高橋」
「やっぱり。小柳だと思った」
優しい笑みを顔に貼り付けながら、入ってくる。
なんで入ってくるの、自然と疑問を持った。
そして私は彼の背中を見て、驚いた。
「バストロだ」
彼はえっへん、と、電車でやったようにドヤ顔した。
「一回帰って、とってきちゃった」
流れるように楽器を取り出し、私の隣に座る。彼に言いたいことは沢山あった。
「なんで」
聞きたいことがありすぎて、こんな言葉しか出ない。
「小柳と、練習してみたくて」
「はぁー?」
「まあいいやん。試しに一緒に練習しよ?」
こっちを見る彼の笑顔に負けて、「仕方ないな」と承諾してしまった。
「ありがとう、小柳」