玄関口に向かって歩いていると、ひとりの宮廷官がクレメンス様に向かって走ってきた。
なんでも外国の大使が急にやって来たそうで、クレメンス様が接見しなくてはならないらしい。
「先に公邸に戻ってなさい」
そう言い残して、クレメンス様は宮廷官と共に行ってしまった。
残された私はポツリと広大な本宮殿の廊下で立ち尽くす。
「……正面玄関って、どっちだっけ」
記憶を頼りにしばらく歩いていたけれど、やはり迷ってしまった。なにせ、どこも豪華なドアと彫刻の並ぶ廊下ばかりで現在地が把握しにくい。私は今どこにいるんだろう。
あまりウロウロしてるのも我ながら怪しいので、恥を忍んで誰かに聞こうかなと考えていたときだった。
「あんた、誰」
ふいに後ろから声をかけられて、私はビクリと肩を跳ねさせた。
そして驚いて振り向いた先にいた人物を見て、さらに百倍ビックリする。